業種・職種(階層)の多様性に合わせた英語研修

英語研修と言えば、一定の人数を集めた集合型研修のイメージがあるかもしれません。実際、当社ももっぱら集合型研修がメインです。しかし実際に学習するのは社員一人一人であるため、英語ほど属人性の高い領域もないように私自身感じます。全員均一に習得できるのは基礎文法や基礎語彙部分ぐらいで、そこから先の学習方略はまさに十人十色、多様性の世界です。

今回は、この多様性をどれだけ英語研修に反映できるのか見ていきます。

 

 目次

1.属人性の高いスキルの扱い方 

以下の図をご覧ください。

【英語力習得を目的とするか自然の帰結とするか】

左へ寄るほど、英語習得そのものを目的化した学習、すなわち「勉強の色合いが強い学習」。右側に寄るほど、仕事や個人的関心の探求を目的とした「結果としての英語習得」の領域です。英語そのものへの関心が強い社員であれば、左側、英語学習をできればやりたくないと感じてる社員であれば右側に、それぞれ寄っていくほど、学習はその人にフィットしていきます。

 

当社では、大学受験でおおよその基礎文法・基礎語彙を習得し、かつ各自の研究領域・関心領域が比較的確立している理系人材をこれまで教えてきましたが、圧倒的に右側の世界に属する学習者が多かった印象があります。ただ、ざっくりとした傾向はそうであっても、さらに個別にヒアリングしますと、細かなニーズの相違が見えてきます。たとえばプレゼン研修を設計する際、あらかじめ2-3名の社員にヒアリングしてみますと、「自分が業務で扱う領域のプレゼン練習をしたい」というニーズがある一方、「業界・業種問わず、普遍的なプレゼンスキルを身に着けたい」というニーズもあります。

 

この図で考えますと、ひとまず「社員B」を想定した標準的な研修設計をしつつ、学習者の趣向と英語力レベルに合わせて、微調整を入れていくことになります。ただこれまでの実体験からしますと、「できれば英語の勉強は最小限で」という社員が圧倒的多数でしたから、興味を持続するためには、可能な限り、各自の関心領域を扱う右側にチューニングすることが多い傾向があります。

2.多様性の様々な切り口

1)学習レベルの多様性

一般的に英語クラスはレベルごとに選別されます。そのメリットとしては、理解度に均一性があると講義が進めやすいこと、ペアワークの際に極端なレベル差を気にすることなく進められることなどがあります。一方、レベルにばらつきがあるクラスでは、敢えてその多様性を活かすこともできます。たとえば、ペアワークの際に、上級者は初級者向けに平易な表現を心掛けるよう促せます。難しい言い回しを簡易なものに変えたり、ひとつの伝え方でうまく伝えきらないときに別の言い方を試みることをパラフレーズ(言い換え)といいます。現場の状況に応じて英語表現を自由に調整できる【機転】【即興力】を育てるものですから、ある意味、通常のモデルセンテンスの完コピーよりも実践的で実利性が高いスキルと言えます。

【パラフレーズのインストラクション動画】

【パラフレーズのスピーキングドリル】

 

また、グループディスカッションにおいても、敢えてファシリテータを初級者に任せることで、グループ全体が平易な英語を心掛けるようになります。あるいは各種役割の中でも比較的難度の高い記録係を上級者に任せることで、他のメンバーにはスピーキングに専念させることもできます。

2)職種の多様性

多くの企業研修では様々な部署の社員が混在します。これは自社内の他部門について知る絶好の機会です。すでにクロスファンクショナル(部門間)な動きをしている企業においては、英語研修がその動きを補強・加速することもあります。一方、これからクロスファンクショナルな動きを入れて、組織内を活性化していこうとしている企業であれば、英語研修にあえて多様な部門から参加者を募ることで、その下地を作ることも可能です。

 

もちろん同一部署からの参加にもそれなりのメリットがあります。すでに知識や体験の共有部分が多いため、英語スピーキングでは最初から活発なやり取りが展開される場合も多いです。また、開発系であればライティングコミュニケーション、営業系であればスピーキングコミュニケーション、マネージャー層であれば説得技術鍛錬など、一定のスキルに特化することも可能です。とある開発部門では、もっぱらメールや文書でのコミュニケーションが多いため、限られた時間内でライティングスキルを抜きんでたものにしようという目的で、徹底的にリーディングとライティングに特化したこともありました。スピーキングの機会もゼロではないらしいのですが、そういう場合でもすでにやりとりしたメールが根底にあるため、やはり肝はライティングベースでの相互理解、説得にあるようだったため、「話せなくても、書くことで説得する」というコンセプトで研修を設計しました。

3)業種の多様性

以前は、全社的な英語力向上という目的を掲げていた企業も多かったのですが、現在の世相としては、「英語は必要な層が身に着ける」という考えが浸透している印象です。弊社が開業した2000年初頭は、どんな企業でも研修の冒頭は「英語の必要性」を説くことから始まりました。この部分における経営幹部と現場社員との熱量にあまりに差があったため、まずは経営層の熱量を現場に落とし込む必要がそれだけ高かったのです。しかし若手人材育成を中心とした現在、この手の話をすることはほとんどなくなりました。いつの時代も、若手の時代感知センサーは鋭く、ベテランビジネスパーソンが心配するまでもなく、「AIがあるから英語学習不要」という短絡的な考えに陥ることもなく、各自がAIをうまく使いつつ、AIではカバーしきれない「真水の英語力」の鍛錬に集中しています。

 

では「真水の英語力」とは何でしょうか?

 

コロナ禍をきっかけに、遠隔会議が浸透してきたことから、英語スピーキング力の獲得が急務になってきたのは業界を超えた共時的現象です。弊社でも、AIでかなりカバーできる他の技能に対して、その場で各自の力が露呈するスピーキングにはかなり注力しています。また若手側からのリクエストも、圧倒的にスピーキング鍛錬に関連したものが多いことも、このAI時代に求められる英語教育のあり方を示していると言えるでしょう。このあたりはだいたいの業界について言えるトレンドだと言えます。

3.業種・職種(階層)別学習戦略一覧

企業研修の最大の特徴は、業種や職種によって優先すべきスキルが違うことです。個々の企業にヒアリングを行って調整する際に参考になるのが以下のような全体図です。なお、職種は本来、営業、開発、企画、技術、生産、経理などを指しますが、このあたりの細かな調整は個々の案件で考慮しますので、今回はもっとざっくりとした階層に置き換えてあります。

【業種・職種(階層)別英語研修一覧】

実際のところ、超多忙な幹部層では個人レッスンである場合もありますし、新入社員研修以外では、中堅と若手の区分けはそれほど厳密になされていないことも多いのですが、だいたいこの一覧をベースにつつ、あとは企業担当と話し合いながら、ターゲットを絞り込んでいきます。

 

この一覧表から読み取れる、大まかな英語学習戦略について見ていきます。

 

まず、昨今AIの発達により、学習者のライティング(W)のレベルアップが著しいことに着目し、Google 翻訳やChat GPTなど、使用が許されているAIツールを活用することを前提とし、そこからスピーキング(S)に発展させていくスタイルはほとんどの職種で共通しています。

 

またその業界特有の業界用語についてはほとんどの企業でカバーしますし、具体的な勉強に入る前に、日本語と英語の発想の違い、言語構造の違いなどについても、全業界・全業種にてカバーします。単語を覚えることや、話す練習といった各論が重要なのは言うまでもありませんが、そもそもどんな英語学習方略を立てていけばよいか?という入り口は、たとえば、現状の英語力に満足していて、それ以上学習する必要性を感じていない社員などの途中挫折を回避させるためにとても大切です。

 

英語学習というと【文字】がベースになりがちですが、一つ留意したいのが、ビジネスには文字よりも音声で賄える領域があるということです。これが顕著なのが接客系です。接客現場では、文字で学習したことよりも、口頭訓練したもののほうが即効性があるため、製造系・非製造系以上に、SとLの比重を高くしてあります。英語研修から思い切って【文字要素】を排除した背景には、かつて接遇系にTOEICを導入したところ、文字中心のリーディング学習に社員のモチベーションがなかなか上がらなかった反省があります。

【文字に頼らない、音だけの英語学習】

【文字、つづりアレルギーへの対処法】

また、製造系であっても似たような反省事例があります。社員のTOEICスコアが想定よりも低かったため、基礎文法要素を多めに盛り込んだのですが、いざはじめてみると、積極的なオーラルコミュニケ―ションが展開され、途中軌道修正をしたこともありました。平たくいうと、【このTOEICスコアではほとんど話せないだろう】という弊社の目論見が大きく外れたということです。以後、ライティングのパフォーマンスやペーパーテストのスコアと、スピーキング力は分けて考えたり、業種職種によっては完全にスピーキング中心に行うようになりました。

 

4.レベル別学習戦略一覧

昨今は、YouTube動画やAIツールによって各自各様に自学展開ができるため、以前ほど厳密なレベル分けはされなくなってきました。それでも受講者が無用な挫折感を味わうことがないよう、一定のレベル別戦略は必要です。

1)全レベル共通学習方略

「思ったことが咄嗟に出てこない」「言いたい単語がパッと英語で出てこない」は全レベル共通の課題です。それと同時に、高度な文法知識を持った上級者よりも、難しい構文を思いつかない初級者の方が、単語ベースでは活発に発言できるような逆転現象も教育現場では起こります。いずれにせよ、「瞬間的に適切な単語が口から出てくるスキル」は全学習者が欲しています。その突破口となるのが、センテンス以前にまずは主要語彙が口から出てくる回路を作る「コンテントワードスピーキング」です。

 【全レベルに有効なコンテントワードスピーキング】

 2)初中級向け学習方略

このレベルになるとビジネス現場でコミュニケーションを実践することが想定されるため、論理的に話す力が求められます。ここではロジック構築に比重を置き、時にAIツールも駆使しながらライティング力を磨いていきます。

【初中級からはロジックを磨く~戦略的ライティング】

自学ベースではライティング。研修ではそのライティングをメモ代わりにどんどん話していただく二本立ての研修が昨今は増えています。とにもかくにも発信主体の研修は、居眠りもわき見もなくなるので、講師受講者ウィンウィンの関係が成立します。空気感も圧倒的医に積極モードになるので、私自身も昨今の研修スタイルは非常に気に入っています。

 

ロジックに自信が持てるようになると、「ネイティブスピーカーから自分の英語はどう思われているか?」ということよりも、あくまでビジネスマインドの延長戦で、「目前のビジネスパートナーをどうやって説得するか?」に目線が変わります。些細な英語表現にこだわることですら、それは「ネイティブらしく話す」ではなく、「微妙なニュアンスを伝え分けるため」という動機にシフトしていきます。こうしたマインドの醸成は、英語が面白くなりかけてきた初中級学習者にはとても大切です。

【ネイティブらしさから解放され、英語はいよいよ”ビジネス武器”化する】

 3)上級向け英語方略

ビジネス英語のゴールは、あくまでもビジネス遂行力の増強です。上級者はその本領発揮ステージです。外国人と対等にわたりあっていくためには、まずは自分のドメイン(専門領域)で多用する用語や概念に精通し、かつ英語で説明できるスキルが不可欠。その用語リテラシーを高める上で有効な英語学習が、業界用語をメインとした単語学習、業界における世界共通語に関する知識、各自の知見の英語化の3点です。以下動画にて解説します。

【業界用語メインの単語学習】

【業界の世界共通言語の把握】

【知見の英語化~ブックレビューを英語で】

 

5.マイペースの落とし穴~研修(隠れ強制)と自学(表向き主体性)

ここで自学副教材として並行利用できる通信講座をご案内します。通信講座の魅力は、研修運営側に一切のオペレーションの負担がかからないことです。一方、社員側にとっては、自分のペースで進められること。ただ、通信講座や自学用アプリ共通の課題として、自学のペース配分がわからなくなったり、実際の英語運用とイメージが結びつかないことが挙げられます。企業内英語研修では、通信講座の添削課題提出期限を研修時にリマインドしたり、社員が実務上で直面したコミュニケーション課題を取り上げ、通信講座教材の一部分を関連させて講義するなどして、高利用術をキープすることが可能になります。Eラーニング、通信講座のメリットは、自分のペースでできること、主体性に任せられる点にありますが、当社の「やらされ感を持たせずにやらせる」コンセプトから、講義を敢えて完結させず、「こちらの詳細は通信講座のレッスン●●を参考にしてください」というように、学習を通信講座へと誘導していきます。

 

俗に「きりのよいところで終える」と言いますが、英語研修においては敢えて、「きりの悪いところで終えて、未消化感を残す」ことで、「その続きをやらないとスッキリしない」という状況を作り、そこから通信講座や動画学習へとつなげることが可能です。これは20年以上教えてきて、授業でやりきってしまうと、多忙な社員はすぐに仕事モードに戻り、勉強へは戻ってこなくなることを学習してきた弊社ならではの発想です。強制的色合いが強くなりがちな研修も、中途半端な終わり方によって、自学をしてスッキリさせたくさせるように誘導していけば、学習者は「やらされ感」を抱くことなく、「すっきりしたい」という自己欲求をベースに自学に向き合うことになります。たとえば弊社ではTOEIC講座も提供していますが、リスニングパートなどは敢えて答え合わせをせずにその日の研修を終了させます。こうしますと、ほとんどの受講者に「もう少し聞きたい」「正解を知りたい」という「ほどよいストレス」が生まれ、結果、自学をやらざるを得なくなるようです。

 

ところで下記通信講座が扱っているプレゼンとネゴシエーションは、ビジネスパーソンにとっては、高難度かつ高汎用性スキルに属するものと言えます。これを可塑性の高い新入社員時代に身に付けさせておくことで、社員はさらなる自己研鑽や実践の場を求めることになり、日々のビジネスは、こうしたスキル発揮の場としての意味合いを帯びることになり、社員の成長モチベーションにも大きく寄与することになります。

【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

 

7.研修実績

#英語研修 #英語話せない #英会話