ビジネス英語が身につく5つのステップ~「辞めさせない」若手育成のヒント

日本の高校生のなりたい職業ランキングにおいて、10年前との比較でわかった2つのトレンドは「公務員人気の上昇」と「男女間における理系文系の人気差の縮小」。一方、企業若手の退職理由トップ3は、「自身の希望と業務内容のミスマッチ」「待遇福利厚生への不満」「キャリア形成が望めないこと」。こうした時代背景を踏まえ、企業研修は、「企業側のニーズと社員側のニーズの調整」という重要な役割を担っています。俗に「若手は3年で辞める」現象に対して、英語研修はどのような貢献ができるのでしょうか?

目次

 

1.ビジネス英語をいつ学ぶべきか?

ビジネス英語について考える際、2つ重要な視点があります。一つ目はビジネス英語の定義。もう一つは「いつ学ぶべきか?」です。新入社員研修では、まずこの2つについて考えていただきます。一つ目の視点については、これまで学んできた学校での英語と比較することで、ビジネス英語の輪郭が割とはっきりしてきます。弊社の体験上、この一つ目の視点はだいたいの方が的確なイメージを持っていらっしゃいます。問題は次の視点です。なぜ問題かというと、多くの企業において、新入社員研修で英語を学んだあと、その英語を使う実践の場がないこと、社内の「勉強より目前の業務を」という圧倒的空気によって、多くの新入社員はその後英語を学び続けるモチベーションを失うからです。

実は、ビジネス英語には「本格的に学ぶステージ」と「軽く輪郭だけつかんでおくステージ」があります。新入社員の場合、実は「軽く輪郭だけつかんでおくステージ」にいることが多く、あまり本格的に学びすぎると、「せっかく学んでも現場では全く生かせない」という不満を誘発してしまう危険があります。

つまり、新入社員や若手には、「今は業務中心でも、やがて広い視野が必要なステージが必ず来る。つまり、将来への想像力の有無がビジネス英語の成否を分ける」といった、少し先を見据えた「目線」をどうやって植え付けられるかが肝なのです。言い換えますと、躍起になってTOEICのスコアをアップさせても、その英語力を3年以内に活用できなければ、彼らは自社外に能力活用の場を求めてしまう可能性が高い。これは他でもなく著者の私自身の体験であり、私の身近な先輩たちの事例でもありますが、このあたりは時代を問わず不変の若者心理だと思います。

 

2.キャリア&ビジネス英語の4ステージ~仕事は3年目から面白い

具体的な英語学習の世界に入る前に、弊社では、以下の図を必ず新入社員や若手と共有するようにしています。

いつの時代でも「仕事は3年目以降から面白くなる」というのは変わりません。つまり3年で辞める若者は、こうした全体像が見えず、目前の退屈さやハードな環境に、その先にある自己成長が見いだせず、他社に目線が向かってしまいがちだと言えます。敢えてシンプルな図表にした理由は、企業によってキャリアパスは多様であるため、社員に「わが社はこうなってはいない」と思わせては逆効果だからです。一方、上記の図であれば、どんな企業、職種にもだいたい当てはまります。なぜならこれは仕事以前に、おおよその人間の成長変化でもあるからです。グループディスカッションなどでこの図を仲間と解読・再解釈してもらうことで、うっすらとでもよいので、「少なくとも3年間は、どんな環境でも体験することに没頭しよう」と感じてもらえたら、このセッションの目的は完遂です。

3. AIの活用とビジネス英語

いよいよ、ビジネス英語そのものの鍛錬について見ていきましょう。現在の若手とそれ以上の世代との大きな違いは、これまで以上に「社会実装という視点」「問いを立てる力」「自由な発想」が求められ、かつ、鍛錬可能な環境にいるということです。そのカギがAIです。

ビジネス英語におけるAIは、言語文脈でいうとLLM(Large Language Models)に分類され、機械翻訳と生成AIツールに大きく分けられます。図にするとこうなります。

 

■ビジネス英語のステップ1:社会実装

1つ目の社会実装とは、研究開発によって得られた知識や技術、製品、サービスを、社会課題の解決や社会の変化のために応用・展開することです。平たく言うと自分や企業の研究を実際の世の中に役立たせること。英語もそのための情報収集や専門家(外国人)との議論ツールとして間接的に関わっているという考え方です。社会実装のイメージとしては、国政ベースでは、Kprogram(経済安全保障重要技術育成プログラム)、地方行政でば「シン東京2050(仮称)」という公募制のプロジェクトなどがあります。社会実装という発想一つ持つことで、一個人の発想から、一企業、そして一地方自治体、あるいは国政に絡めていくことも十分可能です。あとは社員がSNSをはじめとする各種コミュニケーションツールを使って、どれだけこうした機会にアンテナが張れるかどうかです。イーロンマスクとでさえSNSでつながることができる時代ですから、世界規模的展開だって夢ではないのです。

【企業活動と切り離せない国政~経済安全保障】

 

【イーロンマスク×TED×英語学習】

ということで、ビジネス英語習得の第1ステップは、英語習得の最終ゴールは「社会実装」にあるという意識付けです。ビジネスパーソンの場合、この「社会」とは当然ながら自社を含みます。TOEICなどのスコアアップや、流暢な発信力はあくまでも手段であり、決してゴールではないということ。その英語力を実際に使ってプレゼンを行い、ネゴシエーションで相手を説得し、最終的に何らかの成果物をビジネスで納めることこそが、ビジネス英語のゴールなのです。「実装化」がイメージしにくければ、「英語力を何がなんでも仕事の成果に結びつける意識」と言い換えてもよいでしょう。

■ビジネス英語のステップ2:問いを立てる

二つ目のステップは、「問を立てる」力の鍛錬です。これはChat GPTやGeminiなどのLLMの活用でどうしても必要なスキルです。私自身LLMのヘビーユーザーですが、私からの「問い」によって、得られる回答は浅くなったり、深くなったり、狭くなったり広くなったりすることを実感中です。時に納得のいかない答えもありますが、そこであきらめずに、質問の仕方を変えて再度挑戦します。2023年1月にアップしたChat GPTに関する動画において、私自身も「問を立てる力」の重要性に触れています。今聞き直しても、おおよその運用方針は変わっていません。

【問い立て力・深堀り力を育むChat GPT】

実は、問いを立てる力を磨くことと親和性の高い英文法項目がひとつあります。それは仮定法過去です。仮定法過去とは、現実と逆のことを敢えて俎上に載せることで、自由な発想を引き出す技法です。例えば、「予算がないから何もできない」で終わりがちなところを、「もし潤沢な予算があるとしたら、どのように采配しようか?」と想像を膨らませるイメージです。

【仮定法過去を使って”問を立てる力”を磨こう】

■ビジネス英語のステップ3:大量アウトプット

三つ目のステップは、大量アウトプット(ライティング&スピーキング)によってコミュニケーションにおける言語の解像度を上げていきます。言語の解像度を上げるためには、知識としての英文法だけを学んでも身につきません。実際に相手を説得させるために自分の手で英文を書き、学習仲間や講師からのフィードバックを受けることにより、その解像度は上がっていきます。その一例が「冠詞」。日本語にないためか、日本人の苦手意識は強く、日常会話レベルであれば、冠詞ヘッジ、すなわち冠詞を気にせずに自由自在に話すアプローチを取ることが多いのですが、大量ライティングは、学習者の意識を「ひとまず伝わればいい」から「説得性を上げるために、言語の解像度を上げる」へと引き上げていきます。大量ライティングで言語の解像度が上がると、質問の質も変容していきます。「この場合、状況を明確に相手に伝えるためには、冠詞はどう使えばよいか?」というような質問が出てくることもよくあります。自分自身でアウトプットした上で浮上する質問から得られる知識は、一方的文法講義よりもはるかに身につきます。したがって、以下のような動画も、最初に提示するのではなく、受講者から質問が上がった時に案内するようにしています。

【言語伝達の解像度を上げる冠詞】

 

ところで「言語伝達の解像度向上」というテーマは令和の若手社員にはかなり重要なポイントです。例えば、指示する側に「可能な限り言語化して伝える」配慮が求められる一方、指示を受ける若手側にも、「質問・確認をいとわないマインド」が求められます。その質問が不明瞭であったり、抽象的過ぎると、本人が求めている回答や指示は得られません。先述のChat GPT同様、回答の満足度は、自分が投げる質問の質にかかっているのですから、「言語伝達の解像度向上」は若手にとっては不可欠なサバイバルスキルと言えるでしょう。

■ビジネス英語のステップ4:短期戦略と長期戦略

前掲の動画「問い立て力・深堀り力を育むChat GPT」でも言及しているのですが、令和の教育は「求めているものを先に手に入れさせてから、長期戦へ誘導」が肝です。したがって、まずは自分が言いたいことを、自動翻訳ツール総動員で即英語化していただきます。弊社の研修では、スピーキングもライティングも、各自がPC、スマホ等を総動員して、可能な限り「言いたい英単語がわからない」ストレスや、「伝えたい内容を英文化できない」ストレスを最小限に抑え、まずは「思ったことを英語で伝えられる面白さ楽しさ」を先に体験していただいています。楽しさ、面白さの中に見つけた課題であれば、各自が主体的に取り組めるからです。

発信の楽しさに目覚めると、様々な課題を拾えるようになります。例えば、英会話において、確かに話すことは楽しいけれど、相手の発言が聞き取れないとその楽しさは半減してしまうことに気が付きます。あるいは、何かを深堀して語ろうとすると、様々な情報に当たって自分の知識を拡充していく必要性に気が付きます。つまり、リスニングとリーディングという長期鍛錬領域に意識が向かい始めます。これが4つ目のステップです。企業がTOEICスコアアップや地道な英語学習を連呼せずとも、AIツール総動員で、「即発信できる面白さ」を体験していただけば、自分達で、TOEICをはじめとする「地道系トレーニング」に意識が向かい始めます。

【リスニングの方略動画】

4. 専門性×世界観・社会観×英語

■ビジネス英語のステップ5:専門性×世界観・社会観×英語

自分自身が若かった時もまさにそうでしたが、若い世代は、直近の成長に対してかなり貪欲です。先述の【仕事は3年目からが面白い】という着想や、長期的視点を持ってもらうためには、何といっても仕事であれ英語であれ、視座を高くしていくこと。視座が高くなるほどに、自分のキャリアについて短期から長期にわたって考える余裕が生まれます。同様に、視座が高くなれば、自分→チーム→自社→業界→国内→世界、と考える枠も拡大していきます。日々の現実が思考の大半を占めるベテラン世代と違い、社会人としての歴史が浅い彼らは、まだまだ視野はいくらでも拡大できます。また、昨今の若者の投票率の向上は、特定政党や政治家の命運を左右するほどの影響を持つようになってきています。これに伴い、若手にとっての英語は、単なる受験科目やTOEICなどの資格という枠組みを超えて、バランスのとれた社会観・世界観を身に着けるために、海外情報にアクセスするためのツールという立ち位置に代わりつつあります。世界がどちらに向かっていくか?個人も企業もそういった大きな世界潮流をうっすらと読み取りながら、舵を取っていく時代です。聖書は、英語圏のビジネスパーソンの価値観を知るだけでなく、こうした国際情勢を感覚的に掴む上で意外にも役立ったりします。

【国際情報リテラシー向上にも資するビジネス英語】

5.マイペースの落とし穴~研修(隠れ強制)と自学(表向き主体性)

ここで自学副教材として並行利用できる通信講座をご案内します。通信講座の魅力は、研修運営側に一切のオペレーションの負担がかからないことです。一方、社員側にとっては、自分のペースで進められること。ただ、通信講座や自学用アプリ共通の課題として、自学のペース配分がわからなくなったり、実際の英語運用とイメージが結びつかないことが挙げられます。企業内英語研修では、通信講座の添削課題提出期限を研修時にリマインドしたり、社員が実務上で直面したコミュニケーション課題を取り上げ、通信講座教材の一部分を関連させて講義するなどして、高利用術をキープすることが可能になります。Eラーニング、通信講座のメリットは、自分のペースでできること、主体性に任せられる点にありますが、当社の「やらされ感を持たせずにやらせる」コンセプトから、講義を敢えて完結させず、「こちらの詳細は通信講座のレッスン●●を参考にしてください」というように、学習を通信講座へと誘導していきます。

 

俗に「きりのよいところで終える」と言いますが、英語研修においては敢えて、「きりの悪いところで終えて、未消化感を残す」ことで、「その続きをやらないとスッキリしない」という状況を作り、そこから通信講座や動画学習へとつなげることが可能です。これは20年以上教えてきて、授業でやりきってしまうと、多忙な社員はすぐに仕事モードに戻り、勉強へは戻ってこなくなることを学習してきた弊社ならではの発想です。強制的色合いが強くなりがちな研修も、中途半端な終わり方によって、自学をしてスッキリさせたくさせるように誘導していけば、学習者は「やらされ感」を抱くことなく、「すっきりしたい」という自己欲求をベースに自学に向き合うことになります。たとえば弊社ではTOEIC講座も提供していますが、リスニングパートなどは敢えて答え合わせをせずにその日の研修を終了させます。こうしますと、ほとんどの受講者に「もう少し聞きたい」「正解を知りたい」という「ほどよいストレス」が生まれ、結果、自学をやらざるを得なくなるようです。

 

ところで下記通信講座が扱っているプレゼンとネゴシエーションは、ビジネスパーソンにとっては、高難度かつ高汎用性スキルに属するものと言えます。これを可塑性の高い新入社員時代に身に付けさせておくことで、社員はさらなる自己研鑽や実践の場を求めることになり、日々のビジネスは、こうしたスキル発揮の場としての意味合いを帯びることになり、社員の成長モチベーションにも大きく寄与することになります。

【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

 

6.研修実績

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