2024年の英語研修総括~「読めるけど話せない」への多角的攻略の一年

2024年を振り返りますと、聖書のヨベルの年に予言されていたような、まさにグレートリセットのはじまりを思わせる一年でした。目まぐるしく変わっていく国内外の潮流の中でサバイバルを画策していく企業、生活防衛と将来設計に模索を続けるビジネスパーソンと、その予備軍(若手・内定者・学生など)たち。そんな中、英語教育が貢献できることは何なのか?今年もいろいろと模索し続けた1年でした。グレートリセットの波は戻りません。英語研修もその波に合わせて、来年も進化し続けます。ただし、研修の根底に流れている「読めるけど話せない」という日本人の究極的課題への探求は従来通り継続していきます。

<グレートリセットという世界潮流~ヨベルの年>

 

目次

 

1. 反復(Repetitive)か多産(Prolific)か?

※語学に伴う反復、反復の先にある暗記、ともに好きな人はこの項目は読み飛ばしてください。

 

AIの台頭により、英語学習が激変したと思える部分があります。それは語学に伴いがちな「反復」です。私を英語嫌いにさせてきた一番の要因が「反復」。一方、私が英語をあきらめずにここまでやってこれた反対概念が「多産」です。

私を含め、反復が苦手な英語学習者に対して、「多産」という挽回機会を提供してくれるのがAIです。これは一体どういうことでしょうか?

まずは英語講師の私の体験からお伝えします。受講生から寄せられる膨大な数の英文レポートへのフィードバック。しかし残念なことに、私が書く英文はミススペルだらけ。ここを気にしていてはほとんど仕事が前に進みません。そこでAIの登場。私が作成した英文をそのままLLMに投げる。見事な数のミススペルが数秒で修正される。これにより私は肝心の「書く中身」に全神経を集中させることができます。

一方受講者側のメリットとしては、これまでのような「日本語に該当する英単語が思い浮かばない」という語彙力不足をGoogle翻訳やWeb辞書が一気に解決。受講者側も講師同様「書く中身」に集中できるようになりました。

「つづりを気にするストレス」「すぐに英単語が浮かんでこないストレス」この2つがAIによってなくなったことで、私たち英語学習者はもっと大切な恩恵に浴することができます。それは、これまで以上に、「書きたいことを次々と英語化していく」ことです。例えば、これまでであれば、prolific(多産の)を覚えたければ、何度も書いたり、声に出したり、黙読して記憶定着を目指してきました。しかし、AI時代は、そうではありません。まずは「多産な著者でありたい」という自分のメッセージを最優先し、それを自動翻訳させて、I want to be a prolific writer.という英文に出会います。そして、この文章をさらに拡大して、「一発で成功を狙うのではなく、トライアンドエラーを繰り返すことで、多産性を身に着けていきたいRather than aiming for success in one go, I want to become a prolific practitioner who approaches ideas one after another.」のようなやや複雑な文へと発展させます。ここには「同じ単語を機械的に何度も声に出し、書き出す」という退屈かつ苦痛な反復作業はありません。とにかくたくさん書きたいままに書いているうちに、気が付くとprolificが自分の既知語彙に浸透していくのです。

 

もちろん、反復学習を選びたい学習者には、そのまま継続していただきます。その際は、「何回も書いたのになかなか覚えられない私」という低い自己評価に陥ることにないように、講師として適宜フォローはするようにしています。

 

2.  スピーキングの3ステップ

聞く・読む・話す・書く、の中で相手が必要で、かつ咄嗟の機転が必要なスピーキングだけが、AIではカバーしきれません。弊社研修ではこのスピーキング、とりわけビジネスで汎用性の高いディスカッションスキルを中心に扱います。スピーキングスキルの3大課題は以下の通りです。

❶AIではカバーしきれず、咄嗟に自分から言葉を生み出さなければならないこと

❷ビジネスの現場では、特別な環境にない限り、英語を話す機会はかなり限定されてしまうこと

❸コミュニケーションそのものを苦手な人には英語はさらなる負担となること

 

この3つのうち、❶について見ていきましょう。「咄嗟に口から英語が出てこない」ストレスは、英会話にはある程度不可欠ではありますが、それが行き過ぎてしまうと、「沈黙だらけの英会話は時間の無駄」という事態にも陥ります。したがってある程度、沈黙を回避する方略が必要です。そのために弊社では、以下のようなステップで英語スピーキングに誘導します。

いきなりは話せなくても、事前メモを見ながらであれば割とスムーズに話せるという声は、受講者からよく聞きます。また、この事前メモも、以下のように受講者のレベルに合わせて4通り選択できます。A「日本語×アウトライン」のメリットは、日本語であるためにもれなくダブりなく言いたいことをリストアップできることや、アウトラインによってトークの全体像がつかめること、英語を話すのも書くのにも抵抗がある初級者向けであることなどです。これに対してB「英語×アウトライン」は、英語を書くことに抵抗がない中級者向けです。Cの「日本語×文章」は抽象度の高い内容など、いきなり英語で話すと論理的整合性がおかしくなりがちなときに、あえて日本語で書いてみることで、その矛盾に気が付くことができます。D「英語×文章」は、あらかじめ完成された英文をそのまま読みたい方向けです。Dにおいては、いかにも原稿を読んでいる風にならないよう、抑揚、小休止など工夫が必要です。講師の肌感覚では、AやBが多いように感じます。

3. 特性を生かす英語

弊社研修では、ソロでのワークから、ペアワークへ進み、最終的にはグループディスカッションで仕上げます。そこで浮上するのが、「研修でスピーキングの練習をしても、ビジネスの現場では毎日実践の機会があるわけではない」という現実、つまり先述の課題❷です。これへの対応策として、毎週英語を話す時間を設定したり、英文ライティング課題を課したりすることなどが考えられますが、多忙なビジネスパーソンにとってはあまり現実的ではありません。

 

それではどうすればよいのでしょうか?

実はここが研修の正念場でもあるのですが、とにもかくにも冷や汗をかかせて、「実践の世界で英語を使うことは骨が折れる仕事であること」と、「いざとなれば、それなりになんとかやっていけること」、この両方を体験いただくことです。前者は、AI過信によるAI丸投げへの弊害に対する予防線になりますし、後者は「いつ英語が必要になっても大丈夫だから、今は目前の業務ややるべき勉強に専念しよう」という自信につながります。

最後の課題❸である「コミュニケーションそのものを苦手な人には英語はさらなる負担となること」について見ていきましょう。

英語というとコミュニケーションツール、すなわち誰に対しても臆せず積極的に話せるスキルというイメージがあります。しかし、コミュニケーションに対するとらえ方は千差万別です。長年、グループディスカッションに取り組む姿を拝見してきた著者の肌感覚ですと、コミュニケーションへの取り組み様はざっくりと3つのタイプに分けられます。

A。同意、同調はできるが、反論ができなため、意見交換会に終始し、議論にまで発展しない

B。コミュニケーション自体が苦手で、討議の輪に入れない。

C。いわゆる「空気を読む」が苦手。

日本人の場合、圧倒的にAが多く、ここは「わざと」反対意見を促し、互いに自説に相手を説得し合うように誘導します。その際、相手側を尊重しつつ自論も披露するような、けんか腰にならないような言い方が非常に喜ばれます。例えば、「あなたの意見も十分考慮すべきだと思います。参考までに私は違った角度からこのトピックについて述べてみます。I think your opinion also be taken into consideration. For your information, I will address this topic from a different angle.」のようなものですね。

Bについては、英語圏で最も重要な態度は「場への貢献」であることを伝え、議論参画以外の、ファシリテータ、タイムキーパー、ノートテーカーの役割を体験させるようにしています。ファシリテータは自論の主張を控え、メンバーの発話促進のための脇役としてスピーキング量は控えめにします。ノートテーカーは記録に忙しいため、話すのが苦手な人に向いています。タイムキーパーも、意見を述べることはできなくても、「あと10分しかないので、そろそろまとめに入りませんか?」ぐらいの発言であれば話せると思います。

そして、Cタイプに対しては、「空気を読まない発言こそ、議論に新鮮な風を巻き起こす。英語圏はむしろこちらのタイプが多い」ことを伝え、周囲にも理解を促します。

 

コミュニケーションにおける特性、日英の違いを探る上で、私が大いに参考にしている書籍を以下動画にて紹介します。

【コミュニケーションの多様性を考える上で欠かせない一冊】

4.情報リテラシーと英語

2024年は東京都都知事選、自民党総裁選、アメリカ大統領選など政治的イベントが目白推しでした。それの波を受けてかどうかはわかりませんが、一地方自治体の首長選もかなり話題に上がりました。「教室は社会に通じ、英語は世界に通ずる」をモットーとしている弊社では、こうした社会的イベントを単なるひとつのニュースとして扱うのではなく、国内外の情報リテラシーを磨く材料として活用するようにしています。実際、受講者自身も様々な情報が錯綜するメディアにおいて、どのように情報収集を行い、判断力を磨いていくべきか迷っている方も多く、情報収集に関する質問もよくいただきます。

一介の英語講師に過ぎない私は、シンプルに3つのアドバイスを提供しています。一つ目は、AとBと対立する意見がある場合、かならず両極の情報を得ること。とりわけテレビや新聞がAばかり取り上げる際には、必ずBに関する情報も入手してバランスを保つこと。自分がAを支持する場合には、多少我慢してでもB側の番組も視聴すること。二つ目は、討論番組は可能な限り最後まで視聴すること。とりわけAを支持する場合、B側の主張を最後まで聞くことはかなり貴重な体験となります。特に時間的制約がないネットでは、同じ論者に1時間、2時間語らせている番組もあります。ここまで長いと、もはや表面的な言葉だけでなく、その背景にある当人の動機や思考の深さ浅さまで見えてきます。長時間討論番組でもあるリハック、ならびに主宰の高橋弘樹氏に関する考察動画を参考までにアップしておきます。

【長時間討論番組で、キーパーソンの思想やスタンスを知る】

 

三つ目は、聖書には現代社会を予言した聖句や、現代社会を生き抜く知恵に関する聖句も多々あるため、機会があれば聖書のエッセンスにも触れること。参考までに、SNS時代のフィルターバブルについて聖書の一節から論じた動画についてアップしておきます。

【フィルターバブルとマタイによる福音書】

 

5.属人的スキルに切り込む英語

ここで自学副教材として並行利用できる通信講座をご案内します。研修は何よりも実体験重視であるため、実体験をさせて浮上した受講者たちの疑問やコメントに講義的なアドバイスを載せるようにしています。単なる知識としてAの講義を展開するよりも、受講者から「実際にAをやってみたが、うまくいかなかった。どうすればいいか?」という質問を受けてからAについて講義する方が自分事として聞いてもらえるからです。

とはいえ、知識体系としてとりあえずビジネススキルを概観しておくことは、将来実践の場面に遭遇する際にも役立ちます。「いきなり英語で交渉しろと言われて頭が真っ白になった」ではなく、「いきなり英語の交渉に直面することになったが、おおよそのイメージはできている」という状況に受講者を誘導しておくことは十分可能です。それが以下に紹介する通信講座です。プレゼンテーションに関するビジネス書は割と多いのですが、問題はネゴシエーションの方です。著者である私も、製作にあたり、ネゴシエーション英語の参考書を探したのですが、ほとんど見当たらなかったため、自分自身の体験を、経験の有無にかかわらず誰でも応用できる10個のテクニックに落とし込みました。本来であればベテランの個人的体験によることが多い「属人的スキル」を可能な限り組織内で共有できる「形式知」に変えることを目指したのが、本通信講座と言えます。

【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

 

6.研修実績

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