英語教育から読み解く⁉ IT系中小企業の採用・人材育成の課題

目次

 

1. 変化の激しいIT業界で「勝ち残る」ために

具体的な採用・育成の課題を議論する前に、まずはIT業界全体の動向と、皆さんの会社がその中でどのような立ち位置にあるのかを俯瞰しておきましょう。これは、目先の対処療法に終わらせず、抜本的な改善を図る上で非常に重要なステップです。

【ITロードマップでIT業界を概観】

現代のビジネスにおいて、ITはもはやIT企業や社内IT部門だけのものではありません。あらゆる企業、あらゆる職種において、その意義を深く考えるべき喫緊の課題の一つがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

 

 

2. DXに潜む「言葉の壁」

先日、ある福祉事業会社での話を聞きました。日々の介護日報をデジタル化し、スタッフは業務時間外に各自のスマートフォンから膨大なデータを入力することになったそうです。しかし、利用者さんに体調不良や異変があっても、常に「異常なし」の報告が推奨されていました。結果として、画一化・形骸化された膨大な報告データは現場のマネジメントに全く活用されず、スタッフは誰にも活用されない日誌データの入力に時間を費やすことになったのです。この虚しさの中で精神衛生を保つために、言われるがままに形骸化した作業を続けていく「思考停止」が蔓延していました。

 

これはDXリテラシーの問題が非常にわかりやすい形で表面化した極端な事例ですが、どこか日本のDXを象徴するようなエピソードにも思えます。

 

労働人口の減少に対応するための環境づくりに貢献するのもDXの役割の一つです。また、日本全体にDXの正しい活用方法を広めていく「使命(mission)」を担っているのがIT業界であるとも言えるでしょう。

 

英語研修と聞くと、「英語を話せるようになるためのもの」と捉えられがちですが、その基本は受講者の日々の業務にあります。まずは自社・自部門・自分自身のmission(職務使命)job description(業務内容)を明確にするところから、英語研修は始まります。

 

IT業界の全体像を共有した上で、自社の使命・業務内容・立ち位置を改めて考える。ビジネスの解像度が上がるほどに、「では、どんな英語が必要なのか?」「業務の解像度を上げるのに、英語はどういう点で役立つのか?」という発想が生まれてくるでしょう。もちろん、目下日本語でのコミュニケーションに課題を抱えている企業であれば、英語は「あくまで手段」として捉え、日本語でしっかり議論し、認識を共有することの方を優先すべきです。

 

3.用語定義が築く、安定したコミュニケーション基盤

前述のDXの問題は、関係者間でDXに対して描いているイメージや、DXの定義に齟齬(そご)があることにも関連しています。DXの定義にまつわるミスコミュニケーションとしては、例えばこのような状況が考えられます。

 

経営層・営業部門の認識:我が社も他社にならいSaaSを導入しよう。まずは紙の資料をPDFにするところから始めよう」

 

現場部門の受け止め:「また新しいシステム導入か。大変な思いをしてやっと使いこなせるようになったとて、それで自分達の業務がやりやすくなって、業務量が減るとか、何か今後の業務改善につながるわけでもなく、ただただ、変わっていくシステムをマスターすることに我々の貴重な時間が奪われていく。たしかに新しいシステムにキャッチアップすること自体に、何か時代に追いついたような成長感や克服感がしないわけでもないけど、業務の生産性は一ミリも改善されていない現実に“上層部の『DXやってます』っていう自己満か?”と虚しさを覚えてしまう。」

 

DXの解釈だけでも多様ですが、他にも各自各様に解釈されているカタカナ用語がビジネス界には蔓延しています。

 

英語研修では、こうしたカタカナ用語の再定義作業にも注力します。日本語、英語問わずコミュニケーション能力を磨いても、そこで交換される言葉の定義に齟齬があれば、本末転倒だからです。

 

ここでの再定義は、以下の3つの要素を含みます。

 

  1. 一般的定義と業界定義の違い
  2. 自社内・取引先・サプライヤーチェーン内での共有化
  3. 外国人とのコミュニケーションを想定した日英の統合化

 

一例として、「コミット(commit)」の一般的な定義は「ある目標や行動に対して、責任をもって深く関与し、達成に全力を尽くす」です。あるプロジェクトについて、部下に対して「このプロジェクト、コミットしてくれよ」と言った上司に対して、部下のほうは「要するに、“がんばります”と答えるのが無難」と考えているとします。ここから先の展開として予想されるのは、自分の期待通りに働いてくれない部下に対する上司の苛立ちと、具体的な責任範囲や達成への道筋を明確にしてもらえない部下側のストレスかもしれません。

あるいは「サーバーレス(serverless)」であれば、コスト抑制にばかり気が取られているマネージャーであれば、「サーバーレスだからサーバー代がかからないから、費用抑制が期待できる」と考える一方、技術者側も「サーバー管理が要らないから、業務はシンプルになる」と単純に楽観するかもしれません。実際には、サーバーレスとは決して「サーバーがない」わけではなく、開発者がサーバーの細かな管理まで意識しなくてよいという意味であって、むしろサーバーレスならではの設計上の制約や、デバッグの難しさを見落とすリスクなど、負の側面にも注目しなければなりません。

 

このように日本語においても解釈のすれ違いがあるのですから、英語になったらミスコミュニケーションの確率はさらに上がることは想像に難くありません。わかりやすい英語の根底には、わかりやすい日本語があり、そのわかりやすい日本語の根底には、用語定義のすり合わせがあります。俗に「中学英語やカタカナ英語でも通じる」ためには、「用語定義がしっかり共有されている」という前提が不可欠なのです。

 

IT界隈でよく耳にする「アジャイル(agile)」も、かなりミスコミュニケーション的要素を含んでいるように思います。開発に直接携わらない部門や上層部であれば、「アジャイルだから仕様は途中でいくらでも変えられる」とか「とにかく早く作ってくれたらいい。品質は後で考えよう。なにしろアジャイルなんだから」のようにアジャイルを捉えていることもあるかもしれません。やがて、「アジャイルはうまくいかない」という認識が社内で広まったとしたら、それはアジャイルの問題ではなく、社内部門間でのアジャイルの解釈の違いによるものだったのかもしれません。アジャイルの一般的解釈は「変化に柔軟に対応しながら、短期間で開発とテストを繰り返し、顧客のフィードバックを頻繁に取り入れながら品質を高めていく手法」です。決して、ドキュメント不要だとか、無計画な開発や、適切なタイミングや頻度を無視した要求変更が認められているというわけではありません。

 

4.若手人材を惹きつけ、定着させるための5つのキーワード

ここから、若手人材を惹きつけ、定着させるために、英語研修をどのように活用していくかについて話を進めていきます。

 

1) 早期裁量・高速成長:若手の成長意欲を満たす環境を

一つ目のキーワードが早期裁量と高速成長です。中堅以降と若手では時間感覚が違います。とにかく成長志向が強い若手たちは、早く任せてもらいたいし、早く成長したいのです。ある企業では充実した教育ラインナップとは裏腹に、戦力となる若手から次々と辞めていくケースが見られます。報酬などの雇用条件以外でできる対策としては、教育の教授に終始するのではなく、なるべく早い時期に若手に一定の裁量を持たせることだと筆者は考えます。そして、そうした裁量権を手に入れるために、若手自らが日頃からできることが情報収集であり、ここが英語の出番です。しかも、昨今はすぐに翻訳できるため、「アクセスした」「知っている」だけでは十分でなく、それらの情報を自社業務や事業にどう生かせるかまで考えなくてはなりません。それでは、旺盛に収集した情報を活かすにはどうすればよいのでしょうか?

 

2) 経営層の巻き込みと「未来共創」:知見を提案へ昇華させる場を

旺盛な知識欲を「知っているだけ」で終わらせないコツは、そうした知識を編集し、自分の知見や提案に落とし込み、「誰か」に見てもらったり、提案することです。つまり、若手のアイデアを経営層にプレゼンする場が必要だということです。当然ながら、稚拙なアイデアや、業界事情への配慮のない独断的な提案は受け入れてもらえません。ここで彼らは説得力あるプレゼンのために、各方面から情報を収集することになります。ただし、ここの目的は、自分の提案に相応の説得性を持たせることであり、上層部との活発な意見交換にあるため、収集する情報は英語であっても、時に自動翻訳などの力を借りて、日本語で提案は仕上げます。プレゼンもフィードバックももちろん日本語です。ここにもし外国人の役員などが加わるのであれば、日英併記資料や、英語でのプレゼンも必要になるかもしれません。日英いずれにせよ、中身重視という方針はブレません。

 

3)  AIリテラシー:AIを使いこなす「プロンプト力」を養う

「この環境にいると、おのずとリテラシーが高まりそうだ」こうした環境に対するリスペクトの気持ちは若手成長の原動力になります。逆に言うと、現場で何らかの学びの要素、リテラシー向上が感じられないと、早期退職の理由を作ってしまうことにもなります。その点、英語研修はAIリテラシーの醸成にうってつけです。なぜならば、AI生成物はユーザー側のプロンプト(指示)の質に完全に比例するからです。私自身もかつては、「AIはWeb上の情報の寄せ集めだから、生成される提案は凡庸の範囲を出ない」という認識でした。しかし今は違います。私が出すプロンプト次第で、いくらでもAIは提案をしてくれます。つまり、プロンプターとしての自分の成長が、AI生成物の質を左右するということです。

 

4) 理想と現実のギャップの自覚:リアルなコミュニケーション能力の重要性

私自身、入社2年目で転職した一番の理由は、「成長への焦り」でした。30歳までカウントダウンが始まっているのに対して、成長速度が緩慢過ぎて、もっと自分を鍛えてくれる環境に身を置きたかったのです。こうした「成長の焦り」は、時代を超えて若手が抱く感情だと思います。しかも昨今はAIによって、テキストコミュニケーション上の理想的な自分と、リアルコミュニケーション上の冴えない自分とのギャップが大きな時代です。英語の文脈で言いますと、ライティングはAIによる校正や翻訳を通して、非常に洗練された英文が瞬時に作れます。一方、スピーキングは、地道に場数を増やすこと以外でペラペラになったり、論理的な英語が口から出てくるようにはなりません。つまりAIで「頭の中の理想」は青天井で膨らむ一方、スピーキングの方は従来のような地道な努力でしか超えられない旧態依然の状態であるということです。「AIツールに翻訳させる」というのは旅行をはじめとした抽象度の低い場面であり、IT系人材に期待される抽象度の高い議論は、やはりタイムラグのない生身のスピーキング力がどうしても不可欠なのです。

 

5)「組織貢献」という新たな評価軸:ギバーとしての意識を育む

若手は先輩や環境に対して「自分に何を教えてくれるのか?」「自分に何を与えてくれるのか?」という教育のテイカー(受け取り手)としての発想を抱きがちです。しかし、ビジネスパーソンに期待されるのは、逆の素養、すなわち「自分がこの組織にどういう形で貢献できるか?」「どうやって自分たちの後の世代を育てていくか?」という教育のギバー(与え手)の発想です。テイカーはある意味最強です。教育を提供し、指導する側に対していつまでも批判者でいられるからです。一方ギバーとなると、状況は一変します。なにしろ、施すべき教育に簡単な正解などありませんし、スキルも未熟で精神的にも成長途中にある後輩を育てるとなると、自分のことだけに構ってもいられません。結果、成長志向は自分だけではなくなり、もう少しスケールの大きい組織に向かうことになり、自己成長の項目に「組織貢献」が新たに加わります。こうした組織貢献の素養は一朝一夕でできるものではなく、日頃の業務環境や、英語研修という一種仮想グループ体験によってゆっくり醸成されていくでしょう。

 

5.属人的スキルに切り込む英語

ここで自学副教材として並行利用できる通信講座をご案内します。研修は何よりも実体験重視であるため、実体験をさせて浮上した受講者たちの疑問やコメントに講義的なアドバイスを載せるようにしています。単なる知識としてAの講義を展開するよりも、受講者から「実際にAをやってみたが、うまくいかなかった。どうすればいいか?」という質問を受けてからAについて講義する方が自分事として聞いてもらえるからです。

 

とはいえ、知識体系としてとりあえずビジネススキルを概観しておくことは、将来実践の場面に遭遇する際にも役立ちます。「いきなり英語で交渉しろと言われて頭が真っ白になった」ではなく、「いきなり英語の交渉に直面することになったが、おおよそのイメージはできている」という状況に受講者を誘導しておくことは十分可能です。それが以下に紹介する通信講座です。プレゼンテーションに関するビジネス書は割と多いのですが、問題はネゴシエーションの方です。著者である私も、製作にあたり、ネゴシエーション英語の参考書を探したのですが、ほとんど見当たらなかったため、自分自身の体験を、経験の有無にかかわらず誰でも応用できる10個のテクニックに落とし込みました。本来であればベテランの個人的体験によることが多い「属人的スキル」を可能な限り組織内で共有できる「形式知」に変えることを目指したのが、本通信講座と言えます。

【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

6.研修実績

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