ビジネスにおける対話とコミュニケーションの問題解決のヒント5選

「新人類」

私が入社した30数年前、私たちの世代はこう呼ばれていました。当然ながら、「今の若い奴らは何を考えているか理解できない」という中高年世代の皮肉が込められている言葉でもありました。

いつの時代も世代間ギャップはあるものです。そしてネット社会ではこのギャップはさらに広まっている印象があります。今回はこうしたビジネスコミュニケーションの問題解決のヒントを紹介していきます。

目次

1.世代を括れた時代、括れない時代

ネット以前の社会の情報源はもっぱらテレビでしたから、生まれた年代によって、よく耳にした歌謡曲、よく観たテレビ番組はほぼ同じでした。たとえば昭和39年生まれの私であれば、同年代の人と、昔のヒット曲や人気番組の話題を振れば、たちまち一緒にノスタルジーに浸ることができます。

 

一方、今の時代はあらゆるジャンルにおいて、各個人がそれぞれ選択する時代です。生まれた時代が同じであっても、「●年生まれなら皆知っている」という曲や番組があまりないため、単純に生まれた年代が同じというだけで即共有できるものがないという話を20代のビジネスパーソンから聞いたことがあります。

 

たとえばある年に大学生たちに英語の学習手段を質問したところ、かなりの比率でゲームが挙げられました。そこでその年はゲームを使った英語学習を学生たちに推奨しました。しかし、翌年になるとゲームのゲの字もなくなり、英語学習ツールとしてのゲームはその後講義の中で登場することはなくなりました。このようにわずか1年の違いで、学生の趣向も違うのですから、世代をひとくくりにすることはなおさら難しいということになります。性別、年代、など私たちはどうしても何か大きな括りで人を捉えたい欲求がありますが、円滑なビジネスコミュニケーションという視点においては、あくまでも「その人そのもの」という視点が欠かせないようです。かくいう私自身も、「Z世代おそるべし」的な安易な「ひとくくり」は慎むようにしています。

 

2. 意思疎通の責任は伝え手にあり

英語講師として日々痛感するのが、英語圏の「意思疎通の責任は話し手にある」文化と、日本の「意思疎通の責任は受け手にある」文化の違いです。言い換えると、情報の受け手が誤解をした際、英語圏ではその責を負うのは話し手にあり、日本では受け手にあると考えられる傾向が強いということです。

 

こうした背景から、英語では、「受け手が理解しやすいように簡潔に伝える」という意識が働きます。一方日本では、「理解責任は受け手側にあるから、伝え手はとにかく膨大な情報を漏れなく網羅する」ことに意識が向かいます。日本の各種手続き書類がかくも複雑で読みにくいのは、「伝え手として伝えるべき情報は漏れなく網羅した。あとはそれの理解云々は受け手の問題」という心理が働いていることの表れなのかもしれません。特定のテーマのコンベンションに参加した際も、民間企業のスライドは情報がかなり整理・集約されているのに対して、官製・官民系のスライドは「ひとまず全て網羅しているので、情報漏れがありません」というものが多かったように思います。つまりオーディエンス自身が情報の取捨選択の責任を負わされているため、それなりの胆力が求められました。

 

英語の学術論文や専門書を読む限り、欧米の「情報の伝え手責任」とはむしろ逆の「情報の受け手責任」の文化を感じることもありますが、そもそもアカデミック界隈の場合、受け手は一般市民ではなく、一定の専門知識を持った学識者という想定ですから、最初から読者層を限定した上での情報提示なので、その点を踏まえれば、やはり上記の「情報の伝え手責任」文化はある意味貫かれていると言えるでしょう。

 

ところで、ビジネスコミュニケーションという視点で考えるなら、英語圏の「話し手責任」の発想を日本でも取り入れる必要があるように思います。つまり、指示通りに相手が動かなかった場合、相手の理解力不足を攻める前に、まずは伝え手として真摯に振り返るということです。

 

様々な理解力の学生を相手にしている英語講師として実感するのは、ある意味、しつこいくらい、簡単すぎるくらい、説明に吟味を重ねる大切さです。「この授業簡単だなぁ」と感じる学生は多少放置しても自律的に学んでいける一方、消化不良の学生の方は、相応の配慮が必要だからです。これをビジネス場面に置き換えると、飲み込みのよい社員に感心すること以上に、そうとは言えなさそうな社員に対して、自分の伝達力練磨の機会としてとらえられるかどうかが円滑なコミュニケーションのカギだということになるかもしれません。

 

3. ネット時代に爆あがりする一次情報の価値

情報はざっくりと一次情報と二次情報に分けられます。一次情報とは、実際に現場に足を運んだり、問題に直面している人に聞いたりして触れた、現場でしか知り得ない情報。一方、こうした情報を加工し、作成されたもの、人づてに聞いたこと、本などから得た知識などは二次情報と言えます。

 

なんでもググれば二次情報が手にはいる時代において、個人の体験に基づく一次情報の価値は爆あがりしています。しかしながら、一次情報の価値を痛感するのも、実社会での体験があってのことなので、二次情報どっぷり気味のネット世代にこのことを伝えるのはそれほど簡単なことではないかもしれません。

 

こうした点を踏まえ、私自身、日頃の英語研修で受講者同士で英会話のペアワークをしてもらっています。二次情報をリサーチする時間的余裕がないため、おのずと自分の体験、すなわち一次情報メインのコミュニケーションが中心となります。講義も活字情報がベースとなったものは二次情報ですから、自分の体験を随所にちりばめて、一次情報比を上げるようにしています。

 

ビジネスコミュニケーションにおける一次情報とは、各ビジネスパーソンの個人的体験や思いに関わる情報ですから、オフィシャルな会議とは別のところに転がっていることも多いです。私自身、外国人ビジネスパートナーとのやりとりで、彼らの本音や本質が垣間見られるのは、コーヒーブレークのときや、酒席、会食時が多かったように思います。ここにAIツールをさしはさむのか、ダイレクトにやりとりできるのかで、相手からの情報密度はかなり変わってきます。ここも英会話力を磨くべき理由の一つといえます。

 

以上を踏まえ、バブル時代のサラリーマンのように、旺盛な飲みニケーションを推奨したりはしないまでも、コーヒーブレークなどソフトな形での仕事外コミュニケーションは一次情報収集には欠かせません。外資系時代、ミーティングするときには、いつもお菓子とコーヒーメーカ―が用意されていたのも、ちょっとした休憩時間に、そうした一次情報を自然に出し合える環境への配慮があったからかもしれません。おそらくあのお菓子やジュースが、彼らにとってはお酒代わりだったのかもしれません。

 

ところで、一次情報に意識を向けるということは、ネットや書籍からいくらでもとってこれる膨大な二次情報の断捨離が進むということで、より一層、ものごとの優先順位に敏感になります。つまり、必ず解決しなければならない問題と、ずっと後回しにしてもよい問題が一層明確になるということです。安宅和人氏は、前者をイシュー、後者を「なんちゃってイシュー」と呼び、イシューに集中することを提唱しています。ネット上の知識だけでなく、自らの足で現場へ赴き、生身の人間とのかかわりあいから得られる一次情報にウエイトを置くということは、ひいてはビジネスの根幹である問題解決に対する解像度も上がっていくことでもあるようです。

【現場で取ってくる一次情報の重要さ~安宅和人「イシューからはじめよ」】

 

4.リクエストを明示せよ

「お母さんジュース」という子供。

「部屋寒いです」という生徒。

日本人同士であれば、これだけで冷蔵庫からジュースを取り出してくれるお母さんもいるでしょうし、部屋の空調の温度を高くしてくれる教師もきっといることでしょう。しかし、欧米の言語技術教育では、敢えてこのような言い方をされた際、「ジュースがどうしたの?」「そうですか寒いんですね」という返答に終わらせることもあるようです。きちんとリクエストまで言語化する癖をつけさせる狙いがあるようです。

 

一般的に、欧米人と比べると、日本人は、相手の気持ち、相手の要望を、言語化されなくても察する能力に長けていると言われています。しかし、AIをはじめとする機械への依存度が高まる昨今、一度、日本人のお家芸とも言われている「空気を読む」文化への過信は手放した方が良いかもしれません。超能力者でもない限り、やはり言葉にしてもらわないとわからないことはたくさんありますので。

 

私も、日本人相手に英語を教える際、この「空気を察する」力が過分に試される場面によく遭遇します。しかし私も凡人であることにはかわらないので、講義の都度にコメントメメモをもらうようにして、教室で表立って表明されないリクエストをヒアリングするようにしています。もちろん、ある程度こうしたやりとりは、直接対面でできた方がいいので、「極端に講義が難しかったり、簡単すぎるときには、意思表示、せめて顔の表情などで、”伝える”努力はしましょう」と伝えてはいます。

 

実はこの「相手に空気を読ませる」文化は、ひとたび海外に出ると、コミュニケーションリスク要因に早変わりします。わかってもいないのにニコニコうなずいたあとで、致命的なミスコミュニケーションが発覚することもあります。また、英語がわからないからといって眉間にしわを寄せて無言で聞いていれば、「私の発言に何か不服があるのか?」と思われることもあります。したがって、わからない時は、言語で、「今の部分、聞き取れなかったので、もう一度言って欲しい」とか、「可能なら書いてもらえませんか?」とか、「私の理解はこうだが、間違っていないか?」など、何らかの確認努力はすべきでしょう。

 

5.質問を逆算

日本人が英語でプレゼンテーションを行う際、真っ先に心掛けることがあります。それは、なるべくオーディエンスに質問をさせないことです。つまり、あらかじめオーディエンスが抱きそうな質問を想定し、それらを可能な限りプレゼンに盛り込んでしまうのです。これは、日頃のメールも同様です。基本的に英語でのやりとりに苦手意識があるので、なるべくやり取り回数を減らしたい。そのためには、相手から質問が来ないように、具体的な情報を盛り込むようにします。また、自分の方がメールの読み手で、相手に質問する際も、後から五月雨式に質問をしなくて済むように、確認すべきことはこれで全部か?と自分に問い直すことが推奨されます。

 

質問は、前向きなものもある一方、発信側の情報不足を暗に示すものもあります。ここを解消するために有効なのが英語です。英語の基本構文にはコミュニケーション上不可欠な要素が凝縮されているからです。以下、英語のSVOCに沿って見ていきましょう。

 

●S(主語):誰に向けたメールなのか?行動が求められているのは誰か?

「レポートの提出が遅れ気味です」という主語なし発信をしても、もし読み手が自分は提出済と認識していれば、この一文は他の人への苦言として見過ごされてしまいます。一方、英語であればYouと主語を明示するので、読み手は自分に向けられた指示だと理解しますから、「先日提出したと認識していたのですが、確認できていませんか?」というような確認に進むことができます。

 

●V(動詞):読み手は結局何をすることが求められているのか?

「ご理解・ご協力をお願いします」という一文を読んでも、読者は何をしていいかわからないので、きっと素通りするはずです。具体的な行動を読み手に求める際には、動詞も具体的なものに変える必要があります。

 

●O(目的語):対象となるものはどれか?

これは会話でありがちですが、「あれやってくれた?」のように対象を漠然とさせてしまうと、相手も別の「あれ」を想像して返答してしまい、結果、お互い違うことを想定していたことが後で判明するような事態に陥る可能性もあります。英語でもitやthatなど、「あれ」に該当する代名詞は存在しますが、あくまでも前段で具体的なものを述べたあとに使います。

 

●C(補語):そう判断する理由は?

1「むずかしいですね」は、英語で言うところの補語に該当します。しかし英語は「何が」難しいのか、主語が必ず入りますし、そう感じる理由も述べられることが多いです。これは、相手から「どうしてむずかしいんですか?」という問いが予想されるので、先回りして言及し、コミュニケーションの手間を簡略化する狙いもあります。

 

このほかには、5W1Hを盛り込んだうえで、報告や質問をするのもお勧めです。昨今特に重要なのがWHY(なぜ)です。これは英語研修でもよくあるのですが、様々な演習を受講者に課す際、「なぜその演習をするのか?」という理由が不明なままですと、わけもわからず言われたことをやることとなり、学習効果もあまり期待できなかったりします。やはり、「この演習は、自分が苦手とするあの部分を鍛えるために必要なものだ」と納得して行った方が血肉化しやすいです。

 

いかがでしたでしょうか?ビジネス場面における日本語コミュニケーションのヒントは、案外、英語から得られる部分も多いことをお伝えしました。英語ペラペラかどうかとか、TOEICスコア云々の今日的な話題はひとまず脇に置いて、ストレスの少ない日本語コミュニケーションのヒントを英語からたくさん受け取っていただけたらうれしいです。

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