前回は、簡単・簡潔・わかりやすい「日本語コミュニケーション」について見てきました。今回はその英語版です。前回の「簡単」はComfortable、「簡潔」はConcise、「わかりやすい」はComprehensibleにそれぞれ置き換えられます。
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目次
1.簡単・簡潔・わかりやすい日本語から Comfortable・Consice・Comprehensibleな英語へ
4.若い世代の「実践志向」~コスパのよい新入社員研修のポイント
1.簡単・簡潔・わかりやすい日本語から Comfortable・Consice・Comprehensibleな英語へ
1)簡単な日本語からcomfortableな英語へ
日本語の「簡単な」を英語に置き換える単語としてeasyやsimpleなどがありますが、ビジネス英語研修ではComfortableという発想がとても大切です。なぜならば、英語運用はcomforatble、すなわち快適だからこそ使ってみようと言う気持ちにつながり、学習や練習に対するハードルも下がるからです。
ビジネス英語における快適さとは何でしょうか?他でもなく、あれこれ悩んだり戸惑ったりせず、気軽に使えることではないでしょうか?つまり、これまで英語に対して過分に抱いていた「面倒くささ」「ハードルの高さ」を思い切って緩和して、誰でもどこでも使えるようなものにしてしまうこと。ここで外せないアイテムがChat GPTや自動翻訳などの各種AIアイテムです。
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2)簡潔な日本語からconsiceな英語へ
日本語の「簡潔な」はそのままconsice が当てはまります。一般的に英文ライティング3原則はCorrect(正しい), Clear(明確な), Consice(簡潔な)と言われており、consiceはその中のひとつの要素でもあります。Clear とConsiceは似ていますが、情報量や文の長さを短くして読み手・受け手の負荷を軽くしてあげるという要素はClearにはありませんので、多忙なビジネスパーソンの英語運用では、発信側も受信側も、ぜひともConsice、すなわち「わかりやすくて、かつ、手短な英語」を目指しましょう。
実は、Chat GPTなどのAIサービスは、Clearな英語は書けても、Consiceな英語の方は自動的に生成してくれるわけではありません。つまりConsiceな英語の方は、人間側が細やかな指示を出してあげる必要があります。回答の単語数を指定したり、箇条書きを指定することで、AIの英語をよりconsiceなものに寄せていくことが可能となります。そういう点を踏まえると、これからもビジネス英語研修では、100%自前の英語にこだわることよりも、AIに簡潔な英語を生成させるための指示の演習、あるいは、生成されたものの内容の校正などが重視されていくことでしょう。
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3)わかりやすい日本語からComprehensibleな英語へ
先述のように一般的な英文ライティング3原則はCorrect(正しい), Clear(明確な), Consice(簡潔な)ではありますが、「正しさ」に強くこだわる学校教育や受験英語の影響を受けてきた私たちのメンタリティを考慮すると、ビジネス英語では、Correctであること以上に、まずは言いたいことが相手にきちんと伝わるような英語、すなわちComprehensibleな英語の方が重要な課題だと言えます。
Comprehensible、すなわち「わかりやすさ」は、情報の受け手の知識レベル、国語理解力、なども絡むため、実は一朝一夕で実現できるわけではありません。前回の日本語コミュニケーションでも触れましたが、発信者が万全を期しても、一定の割合で、誤解や説明不足が発生してしまいます。ここは日本語同様、実際の生身の相手に向けて発信しながら微調整を学習していくしかありません。
以上のような事情から、一般的な3原則であるCorrect/Clear/Consiceをわきまえつつも、自由闊達な発信、迅速なコミュニケーションのためにも、Comforatble/Consice/Comprehensibleという発想をビジネス英語に取り入れていきましょう。
2.日本語から見える私たちのビジネス英語の課題
1)伝えたいことを出し切れているか?
弊社のビジネス英語研修は、日本語と英語両方から攻略します。例えば、何らかのレポートを最初から英語で書いていただくと、おおよそ3つの課題が浮上します。ひとつは「伝えたいことを出し切れていない」こと、二つ目は「そもそも日本語でも何が言いたいのかわかりにくいこと」、そして三つ目は「日本語的発想をそのまま英語化したことにより、ほとんど真意が伝わらない英語になっていること」です。
この3つの中で最も重要なのがひとつめの「伝えたいことを出し切れていないこと」です。英会話演習において、何ら準備もなしでいきなり英語で話をしていただくと、必ずこの壁にぶちあたります。言いたいことを英語化するのに精いっぱいで、言いたいことが10あった場合、その半分も言えずに終わってしまうということです。ビジネス会議で言うべきことの半分も言えないのは、日英問わず致命的です。したがって、まずは「伝えたいことのリストアップ」をしていただきます。その際、準備ワークには以下のように2つのモードを設定します。
3.日英問わず、いち早く「本番モラトリアム」から脱却しよう
1)アングラ劇団から学んだ「脱・本番モラトリアム」の手ごわさ
小職は学生時代、アマチュアのアングラ劇団に所属していました。公演が終了し、スタッフ総勢で打ち上げをしていたときのことです。制作をはじめ裏方歴の長い方の話が印象的でした。彼女は演劇が好きで、いつかは自分も舞台に立ちたいと思っていました。その勉強としてまずはスタッフとして劇団を手伝いながら、たくさん演劇を見て見聞を深めてきたそうです。しかし、実際の舞台を見れば見るほど、舞台に立つことが怖くなってしまい、舞台デビューが遠のいていったそうです。
かく言う私も最初は舞台装置の裏方をやっていたのですが、傍らで役者たちの練習風景や本番の緊張感を観察しているうちに、だんだん舞台デビューが怖くなってしまいました。向学を目的としてたくさん学ぶこと、知識を増やすことは良いことではあるのですが、この時期があまり長くなってしまうと、実践という本番デビューがどんどん遅くなり、遅くなるほどに、デビューが怖くなっていきます。これを便宜上「本番モラトリアム」と呼んでおきます。モラトリアムとは「実践までの準備期間」のことです。
裏方をやっていた時は、想像の中での「舞台」が膨らみ、どんどん自分が頭でっかち、耳年増になっていくのがわかりました。実際、演劇好きの仲間と演劇を語っていた時、「でも君は一度も舞台立ったことないんだよね?」と言われ、現実を目の前にたたきつけられたように、私は言葉を失ってしまったことがありました。どれだけ熱く語っても、実践の壁は、やはり実践しない限り乗り越えられないということを痛感しました。そのあたりから、私は演劇を語る人を辞めて、黙々と演劇をする人にシフトしていきました。こうした「知識より実践」は、そのあとのビジネスパーソンとしての私の人生に大きな影響を残すこととなります。
2)Web会議で加速する「脱・本番モラトリアム」
ビジネス英語の世界にも「脱・本番モラトリアム」という壁はあります。
今は思い立ったらすぐにZoomで会議ができてしまう時代です。これこそ「脱・本番モラトリアム」、すなわち「本番までのモラトリアム期間が実質ほとんどなくなってしまった時代」だとも言えます。さらに各種自動翻訳によりメールやSNSで即時コミュニケーションができてしまうようになったため、「メールやチャットの流暢な英語と、WEB会議でのしどろもどろの英語のギャップ」も生まれます。ビジネスはスピード感が命です。「メールやチャットのクイックレスポンス」はそのまま「Webでも同様な快活なコミュニケーションができるだろう」という相手側の期待を膨らませます。
実際、とあるビジネスパーソンは自動翻訳を駆使して、難なくチャットやメールでビジネスをこなしていました。しかしその相手が実際に来日して直にやりとりをしようということになり、応急策を相談されたことがありました。自動翻訳やライティングというある意味モラトリアムを設けずに対応するためには、それなりの方略が必要です。今のビジネスパーソンに必要なのはまさにこの部分ではないかと思います。
話すことへの面倒臭さや恐怖を乗り越えるためには、やはり実際に話す体験が不可欠です。この相手は外国人である必要はありません。身近な日本人相手に、咄嗟に英語を話す「不便さ」「しんどさ」「思い通りにいかない苛立ち」を早めに体験してしまいましょう。あとはそこをどうやって乗り越えていくか知恵の出し合いへと進みます。何しろ実際に自分で汗をかいたあとなので、それなりの現実的な応急策はいくらでも出てきます。
3)知識が増えるほどに長引く「本番モラトリアム」
英語運用に一定の語彙力・文法力などの知識が必要であることは否めません。しかし、どこかで実践に舵を切らないと、半永久的に知識のインプットが続くことになります。たとえば受験英語を体験した人であれば、忘れてしまった単語の多さに最初は唖然とするかもしれませんが、一定の学習期間は必要であるにせよ、やはり研修という「守られた空間」で実際に英語を話してみる体験を早めに済ませてしまうことをお勧めします。
大卒、大学院卒など、比較的知識に恵まれた方々に散見されるのが、「学ぶ」ステージに長くい過ぎてしまって、実践マインドがなかなか育たないことです。私は、知識偏重による現場感覚の後退を克服するには、「守られた場所で汗かく体験」が果たす役割は非常に大きいと感じています。
4.若い世代の「実践志向」~コスパのよい新入社員研修のポイント
1)新入社員をとりまく背景
現在小職は、大学を中心に若手の英語教育に従事しています。コロナ禍をきっかけとして、Zoom、動画、Google Classroomなどの自学環境は、これまでの英語教育史上最も恵まれた状況にあります。
しかし、学生と話してよく言われるのが「英語学習はやっぱり対面授業がいい」という意見です。多くの自学動画を配信している私としては、動画学習の利点を強く打ち出したいところなのですが、彼ら曰く、ウェブだけの学習は続かないらしく、どうしても対面授業のような場が不可欠らしいのです。
動画には字幕がついていますし、英語の記事も自動翻訳ツールで読めてしまいます。伝えたいことも自動翻訳でほぼカバーできます。Chat GPTなどのAIツールに質問すればそれなりの回答も手に入ります。これだけ便利な時代になっても、当の若者たちは、従来のような対面式授業でこそ一番学習がはかどると言うのです。いくら便利な時代とはいえ、全て自学に委ねられてしまうと、学習者のモチベーションはどこかで途絶えてしまいます。また、実際に英語を話す体験は、これはリアルなクラスでないと実践できません。若い世代はこの2つの課題を十分自覚しているようです。
それならば、企業の新入社員研修も、自学の限界と、圧倒的なアウトプット不足、この2点に絞り込んだものにすれば、研修時間も費用も最小限に留められ、かつ、彼らが最も必要としていることにフォーカスできて一石二鳥なのではないでしょうか?
2)新入社員研修ならではの考慮すべきポイント
新入社員の彼らは、長い学校生活で「座学」はもう十分すぎるくらいやってきています。また昨今は何でもネットで調べられる時代です。彼らに必要なのは「体験」や「実践」です。
短い時間で構いません。強制的に英語を話させ、良いこと残念なことひっくるめてまずは彼ら自身に体験させることが肝要です。とりわけAIツールに頼る「時間的猶予」のない、即興英会話がこの場合お勧めです。
また、スケジュール的に多様な英語力レベルの社員が同一の環境で学ばざるを得ないのも新入社員研修ならではの制約条件です。これを逆手にとって、あえて、違うレベルの新入社員同士で、各自の得意不得意を補い合うグループワークやペアワークなども有効です。なぜならば、ビジネス英語のリアルとは、ネイティブレベルのメンバー以外にも、非ネイティブの英語話者や、様々な英語レベルの外国人とやり取りしなければならないからです。実際私自身も、英語上級者に助けてもらったり、私自身がウィスパリングなどで同僚を補助したこともありました。ウィスパリングとは、会議などの席で、隣席のメンバーに小声で同時通訳をすることです。
以上、新入社員ならではの制約条件も考慮して研修を設計するとこんな感じになります。これをベースに時間・コマ数・日数などを適宜調整していくこととなります。
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3)新入社員研修担当者の負担激減~スマホ自学世代には通信講座も一計
研修は準備などかなり設営側のリソースを使います。その点にも考慮しますと、2か月程度の短期通信講座は魅力的です。当然のことではありますが、学生たちの英語の悩みの中で多いのが、「実際に仕事で英語を使うことがイメージできない」ことです。下記教材は、英語力のレベルによって柔軟に使い分けることが可能です。例えば初級であれば、スキットの日本語を読んで、ビジネスにおけるプレゼンやネゴシエーションがどんなふうに展開されているのかをイメージしてもよいでしょう。もちろんビジネスに耐えうる英語力鍛錬に重きを置くべき中上級者であれば、教材の指示に従って、まずは英語の解読・リスニング・音読などの通常の英語学習をメインに行うのがよいでしょう。また一部の帰国子女や英語上級者であれば、下記教材を学習した後で、自分なりのプレゼンアウトラインや、入社後に直面するであろう日本語のネゴシエーション場面での展開に、教材のネゴテクニックを応用してみるのもよいでしょう。
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【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】
5.まとめ
今回は、「簡単・簡潔・わかりやすい英語コミュニケーション」というテーマを扱いました。その肝となるのはアウトプットや実践であり、これがタイミング的に最も腹落ちしやすいのが若い世代であることから、新入社員研修についても簡単なアウトラインをご紹介しました。AIの台頭により英語学習をサポートする環境はかなり向上してきました。それでもビジネスで相応の成果を出すコミュニケーションツールとして使いこなすには、それなりの時間が必要であることはいつの時代も変わりありません。その時代ならではの便利な環境を活用しつつも、本業と両立可能な英語学習の道筋はある程度社員に示してあげることはとても意義があることです。本記事をその参考にしていただけたら幸いです。