オンライン研修受講の留意点~研修全般と英語研修

オンライン研修の魅力は何よりも時間効率の良さにあります。ただ手軽さゆえの留意点もそれなりにあります。その中でも一番重要なのは、受ける側のモチベーションによって知識の吸収度合が変わることです。

 

対面式であれば、受講者自身の受講に至った背景について深堀してから知識の提供に進んでいける一方、オンライン研修は一方的な知識の提供に終始しがちで、出席確認や、事後テスト、アンケートのようなもので受け手側のコミットメントを確認することぐらいしかできません。この手軽さゆえのコミットメントの薄さをカバーする上で見逃せないのが、受講前の様々な仕掛けです。

 

さしずめ本ブログ著者は、対面式授業とオンラインのハイブリッド型教育を展開中ですが、ワンウエイの情報供与などは可能な限りオンライン化することで、授業では受講者同士の生のコミュニケーションや、アウトプット演習などに注力でき、オンライン以前よりも授業密度は濃くなったように感じます。

 

1.オンライン研修の定義と種類

オンライン研修とは、インターネット上で受けられる研修のことで、オンライン会議システムや動画配信プラットフォーム、インターネットブラウザなどを通じて実施されています。種類は大きく分けて、録画配信方式とリアルタイム方式があります。録画配信方式は、あらかじめ録画された動画を受講者が好きな時間に視聴できるのに対して、リアルタイム方式はライブ講義であるため、決められた時間に受講しなければなりません。録画配信方式においては、受講者は視聴しかできませんが、リアルタイム方式であれば、講師のファシリテーションによって、参加者同士の交流や、発言参加も可能です。

2.オンライン研修のメリット

1) 距離的制約のなさ

企業向け英語研修で実感するのが、東京を中心とした関東圏と地方の温度差です。この温度差を一気に解消し、距離的制約なく学習機会を提供できるのがオンライン研修第一のメリットだと思います。

2) 取捨選択のしやすさ

対面式講義と違い、いつでもどこでも受講できるため、受講者の講義選択の幅も広がります。ブログ著者は現在教育機関で講義展開中ですが、さらに自主的に学びたい受講者が自由に選択できる自学動画も展開中です。

【自学動画の一例~多読・多聴・TOEICなどの語彙学習】

3) 反復視聴による浸透性の高さ

どんな領域であれ重要な知識の定着にはある程度の反復が必要です。これが英単語学習になると、反復の重要性は避けて通れません。オンライン研修であれば、研修内容を何度も復習できるだけでなく、ただ視聴するだけで自動的に反復学習が成立してしまうメリットもあります。

【視聴行為自体がすでに自動反復となる語彙動画】

4)概観に向いているオンライン

多忙なビジネスパーソンの知識構築において今後益々重要となるのは、知識を0か100として捉えるよりも、広く浅く、「完全ゼロ」という領域を作らない姿勢だと思われます。特にある程度現場経験のある中堅ビジネスパーソンであれば、少しだけかじったとしても、これまでの他の領域の経験から応用できることもあります。

 

私自身、「●●領域は完全オンチ」とシャッターを下ろすのではなく、「●●領域は得意ではないけど、ある程度は理解可能」というスタンスを意識しています。オンライン研修は、特にこうした「ざっくり全体像を掴む「概観系」「ダイジェスト系」には最適です。ブログ著者は、グローバル人材育成に関する講義も行いますが、抽象度が上がるほど、受け手の消化具合の差は大きくなるため、消化に時間がかかる領域において敢えて動画にまとめて提供することも多いです。

 

ところで2021年にドストエフスキー生誕200年を迎えたこともあり、国内外では今ちょっとしたドストエフスキーブームになっています。私は現在理系人材を中心に英語教育を展開していますが、教養・芸術・文学的なエッセンスは彼らにこそ有効です。というのも、得意分野での議論を終えた後のソーシャルな場面において、仕事や専門領域を超えた雑談は、欧米社会の一種暗黙のお約束になっているからです。もちろんこういう視点は理系人材のみならず、ビジネスパーソン全般にわたって重要なポイントです。ディナーの席で、ビジネス以外の話題を振られることも多々あるので、こうした雑学はある程度仕込んでおいて損はないでしょう。

【概観系動画でドストエフスキーおさらい~悪霊】

【概観系動画でドストエフスキーおさらい~罪と罰】

【概観系動画でドストエフスキーおさらい~カラマーゾフの兄弟】

3.オンライン研修のデメリット

1) 受講者個人へのフォローの手薄さ

ビジネス系の研修の最終ゴールは、研修で学んだことの実践にあります。オンライン研修は「受けっぱなし」に終わる可能性があります。この点においては、可能であれば対面カウンセリングなどの工夫が必要かもしれません。

2) 場が創造する新たな課題が生まれにくい

コロナ禍が落ち着き、対面式講義の機会が増えて実感するのが、「場の力による学習刺激」です。実際の教室で、様々な受講者とタスクを共有したり、議論をすることで、さらなる学習モチベーションが刺激されている場面をこれまで見てきました。人間の学びのモチベーションは、活字や動画だけでなく、リアルな空間を共有する他の人間からいただく部分も多く、特に自学では続かない語学には対面的学習スペースは重要だと思われます。

3)英語スキルでは超えられないものが見えにくい

お手軽なのがオンライン研修の魅力とすると、英語においても習得までの最短距離をイメージさせやすいのもその魅力のひとつでしょう。ただ、実際の外国人とりわけ欧米の英語話者が英会話で本領発揮するあの「話題の広さ・深さ」で苦戦している日本人ビジネスパーソンの現実はなかなか伝えられません。これが知識集約型教育ツールであるオンラインの限界と言えます。一方、対面式研修であれば、受講者の反応や会場の空気を見ながら、こうした英語実践のリアルを織り込めるので、英語スキルでは超えられない要素をそれとなく学習者に喚起させていくことが可能です。平たい言い方をしますと、「感じてもらいたいことは対面」「情報として淡々とやりとりしたいことはオンライン」というイメージかもしれません。

4.オンライン研修受講のポイント:研修全般編

1)  コミットメントはスペクトラム

コミットメントとは、日本語に訳すと「委託」「関与」「約束」「責任」であり、ビジネス文脈では「責任を持って自分が関わっていくこと」という意味です、スペクトラムとは「連続体」や「範囲」という意味で、主に光学や物理学で使われています。つまり、研修の成功は、受講者自身が各自が関わる業務に活かしていくために、強い関わりを感じながら受けることにあり、その関与や責任の感覚の強さは受講者個人によって違います。

 

自由選択式のオンライン研修のコミットメントは、福利厚生というコミットメント性の低いものから、特定の役職や職層に受講を義務づける、高コミットメントなものまでまさにスペクトラムと言えます。オンライン研修受講の際には、自分のコミットメント性がどの位置にあるのか確認しておくとよいでしょう。当然ながらコミットメント性が高い場合には、受講しただけで満足せず、そこから先、研修エッセンスをどのように本業や自分のキャリアにつなげていくかも考える必要があります。また研修費用を負担するのが企業や企業教育部門である場合には、こうした視点は一層重要であることは言うまでもありません。

2) 知識と運用のバランス

なんでもネットですぐに調べられる時代。単に「知っている」ということは、「深く知っている」や「実際にできる」に比べると相対的価値は下がっているように思います。ただ、「知る」を「知る」に終わらせず、次の「深く知っている」や「実際にできる」への呼び水にする限りは、オンライン研修で広く浅く知識武装をすることにも相応の意義はあると言えるでしょう。オンライン研修受講の際は、ぜひとも自分の受講の先にあるゴールは何なのかを再確認しておきましょう。

3) 他媒体との相乗効果

オンライン研修を受ける際、特定の講師による講義であれば、その講師の著作物を一通り読んでみることをお勧めします。例えば事前に読んであらかじめ講師のスタンスを理解しておくことで、研修当日の理解を深めることも可能です。また、少し年数が経ってしまった著書を読む場合には、最新の研修を受けることで著者のエッセンスをアップデートすることもできます。

 

あくまでも本ブログ著者の経験的な感想ですが、以下にオンライン研修、動画、書籍における違いを概観します。

 

情報の鮮度順で並べると、オンライン研修>動画>書籍、という印象があります。書籍は発売した時点から着実に年月が経っていきます。その点、ライブのオンライン研修は、情報鮮度という点ではもっとも優位にあると言えます。動画は、これら二つのちょうど中間的なポジションにあると言えます。

 

一方、理解の深さで並べると、書籍>動画>オンライン研修、という印象があります。書籍は何度でも読み返せますので、私同様、ものごとの消化・腹落ちに比較的時間がかかるタイプであれば、書籍は魅力的です。ただ、感覚的な浸透という点では、目のみならず耳からも情報が入ってくる動画の魅力も捨てがたいです。さらに、講師の生々しい体験を直に聞けて、場合によっては自らも質問などで参加できるオンライン研修は、感覚的な腹落ち、納得には最も優位な媒体だと言えるでしょう。

 

最後に触れた「感覚的な腹落ち・納得」を活字でお伝えするのは非常に難しいのですが、例えるなら、コンサート会場での興奮、実際の舞台で観た感動は、CDやDVDでは再生できないことに似ているかもしれません。

4) T字型の自己探求

Chat GPT, Google Bard, あるいは各種自動翻訳などの台頭により、私たち現代人は、ある種の万能感(AIを使えば何でもできる)を抱き、出現しては消えるツールたちに次々と乗り換えることに終始する危険にさらされています。かくいう私自身も、次々と新しいプラットフォームに乗り換えてきました。しかし実感するのは、プラットフォームはあくまでも表現手段に過ぎず、そこに乗せて伝えたいことが常に問われていることでした。Chat GPTなども、これが文明の利器に昇華されていくかどうかは、ユーザー側の「質問を立てる力」次第であることは、多くの方々が実感されているかと思います。

 

オンライン研修にも同様のことが言えます。オンライン研修は広範囲なラインナップで気軽に学べることが強みですが、これらが活かされるかどうかはユーザー側の専門領域や専門スキル次第です。多種多様な人たちと関わっていく上で、広く浅く物事を知っておくことにも相応の意義がありますが、オンラインで手軽な学びの恩恵に浴しつつ、自分のコアになる専門領域についてのアップデートにも意識を向けましょう。

 

こうした知識配分を視覚化したのがT字型人材という考え方です。T字型人材とは、特定の分野を極めながら、他の幅い広いジャンルにも相応の知見を持っている人材です。たとえば一般的ビジネスパーソンにとっての英語は、下記の図においては、横棒、すなわち本業での成功を助けるコミュニケーションツールであることがわかります。

5) 自由選択か強制参加か?

英語に限らず、自由選択と強制参加の違いはかなり大きいです。まずは自由選択のメリットは、何よりも、自分が自ら希望した研修なので、学習意欲が高いことでしょう。一方デメリットとしては、本業での必要性と、自由選択結果が必ずしも一致しないことがあることです。英語研修の場合、業務上必須ではない社員が、個人的な動機で受講することもたまにありましたが、福利厚生でもない限り、やむを得ず受講を制限したこともありました。英語を業務必須スキルと考えればこれも致し方ないことです。また、本業上有望な戦力で「あと英語さえできれば…」という人材に限って、英語を回避してしまう傾向があり、彼らを英語力習得に誘導しにくいのも自由選択もデメリットと言えるでしょう。

 

強制受講で懸念されることは、何よりも「やらされ感」が学習意欲を削いでしまう可能性。ただ、業務上必要であれば、ここはある程度業務として学んでもらうことは必要ですし、ここにはあまり選択の自由を持ち込まない方がよい場合も多々あります。私自身の外資系企業体験においても、製品勉強会などは完全に強制参加でした。

 

英語もひとたび業務上不可欠なスキルと判断されれば研修も強制となるのは致し方ありません。ただポイントは、強制か自由かよりも、英語をどれだけ本業スキルに紐ずけられるかにあると思います。本業における海外情報リテラシーが各段に上がり、英語で身につけたプレゼンや交渉術も、そのまま日々の日本語での業務に活かせることを体験していただければ、「本業に役立たない→やらされ感」についてはそれほど心配することもないでしょう。

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6)与えられる日系・奪取する外資

与えられる研修なのか、自ら勝ち取る研修なのか?

この違いは「効果的な研修運営」にとってかなり決定的なものだと個人的には感じています。ちなみに日系企業には圧倒的に「与えられる研修」が多い印象があります。(企業英語講師として強く感じつつ、なかなか踏み込めない歯がゆさを感じています)

 

私は外資系企業でプロダクトマネジャーを拝命しました。それに伴い米国本社での製品トレーニングへの参加を命ぜられましたし、海外の各種学会に参加する機会にも恵まれました。ただ、外資系企業の場合、そうした機会は「自らが獲得するもの」であり、常にその研修機会によって自分がどのような形で本業に貢献していくかが「暗黙の了解」として求められていました。

 

こうしたことを象徴するようなアドバイスを上司からもらったことがありました。

「外資系企業にも”機会平等”という概念はある。ただしそれは初期の段階の話。企業から平等に与えられた機会で成果を出せなければ、次にその機会が与えられることはない」

またこういう苦い経験もしました。

当時は、マーケティング関係者であればだれもがピーター・ドラッガーを読んでいた時代。社長はドラッガー本を特定の社員に配布したことがありました。自分に支給されなかった悔しさが、その後の私の自己成長意欲をかきたてたことは言うまでもありません。

 

このように、教育機会は決して終身平等でないことを外資系で味わった私です。そんな私が研修講師として実感したのは、日系企業にとって、研修は「ご褒美」「福利厚生」的ニュアンスが強く、研修と具体的な業務成果との連動性は極めて薄かったことでした。一方、TOEICのスコアアップ率のような、学校のテスト成績のような領域に対しては異様なくらいのこだわりを感じることも多々ありました。

 

教育に対する企業のスタンスは一朝一夕で変わるものではありませんが、外資系ほどでなくても、多少の弱肉強食的要素を研修に持たせてもよいような気がします。

 

5.  オンライン研修受講のポイント:英語研修編

1)  ライティングコミュニケーションを育てる

対面式と違い、オンラインの場合、メールなどを使ったライティングコミュニケーションの比重が高くなります。巷のZoomでのイベントに参加しても、参加者は都度に質問やコメントをタイピングできることを考えますと、オンラインでの英語研修の強みは、単に読んだり聞くだけでなく、自らもライティングで参加できるインタラクティブ性にあると言えます。また、対面研修で口頭発言することに慣れてない日本人受講者でも、ライティングであれば比較的抵抗なくできるという利点もあります。

2) 「勉強になった」「ためになった」で終わらせない

日本人の研修受講姿勢に多くみられるのが、「勉強になった」「ためになった」という感想に終始することです。研修ゴールはあくまでも企業や本業への還元にあります。したがって、アンケートを含め、受講後のレポートには必ず「今後の業務に活かせるポイント」について記録する、記録させることをお勧めします。こうすることで、例えば「英語では常に主語を明記する」という原則を学んだあとであれば、「日々の日本語でのレポートにおいても、読み手に誤解を与えないために、主語は常に明記することを心掛ける」というような行動指針が生まれます。

3)「目からうろこ」で終わらせない

研修をエンターテイメントや福利厚生目的とすると、イベントとしての面白さを期待されてしまいます。英語もご多聞に漏れず、従来の常識を覆すような学習法が期待され、実際にそういうものが提示されると、「目からうろこ」というような感想をいただくことがあります。しかし、どれだけ斬新な発想でも、毎日継続できるものでなければ研修本来の目的は満たせません。大切なことは、「当たり前のこと」をどれだけ工夫して飽きないようにするかであり、研修の最終的な問いは、「では、明日以降自分はどんな方法であれば、確実に学習は継続できるのか?」であることは忘れてはならないでしょう。

4)コミュニケーションの特性と英語戦略

本ブログ著者は理系人材における英語指導歴が長いのですが、対人的コミュニケーションよりも、ライティングのみでのコミュニケ―ションで本領発揮する受講者にも多々出会ってきました。オンラインであれば、対人的コミュニケーションで配慮されるべき、目線の位置、場の空気を読むスキルなどあまり求められませんので、対面時以上に、情報交換や言語的やり取りに純粋に特化できるため、これがかえってやりやすく感じる受講者は一定数いることでしょう。

5)メモのとりかた

画面で資料共有したり、パワーポイントデータなどは後日共有できたりするため、メモを取らなければならない場面は割と限定されています。学校時代に綺麗なノートが作れなかったタイプの受講者でも、あまりメモに気を取られずに受講することが可能です。実際私自身、様々なオンラインセミナーに参加しましたが、メモを取ることはほとんどなく、その分、肝心の講義に100%集中することができました。

6)「外国人は…」「ネイティブスピーカーは…」は要注意!?

英語研修で気を付けたいのは、英語話者は全てネイティブ英語話者ではないという前提、外国人といっても多様な人がいるという前提です。英語話者の7割以上が非ネイティブスピーカーという時代ですから、英語研修でコミュニケーションを学ぶ際には、「外国人は~」「英語ネイティブスピーカーは~」というステレオタイプ的な論調にあまり入り込まないように注意しましょう。

7)受講レポートの書き方

企業が主催するオンライン研修であれば、視聴後にレポートが社員に課されていることも多いでしょう。実は主催企業ならびに受講した社員双方にとって重要なのは、「セミナーコンテンツを今後の業務にどのように活かしていくか?」という知見です。この部分はセミナーアンケートにはぜひ盛り込んでいただきたいですし、仮にそういう項目がない場合でも、受講者自らが、この部分については言語化しておいた方がよいでしょう。オープンセミナーが形骸化しがちな要因として、この「受講で得た知識を明日以降どう自分の業務やキャリア展開に活かしていくか?」があまり深く検証されないこともあるように思います。

6.まとめ~機会提供から機会奪取へ

いかがでしたでしょうか?

オンライン・対面問わず研修は主催側の周到な準備によって実施されることが多いのですが、実のところ、成否のカギを握るのは、それ以上に、受け手側にあることををお伝えしてきました。

私自身、会社の本業経営が厳しき折、真っ先に削られるのは教育費用であることは重々承知しています。そのような現実に即しつつ、教育に高コストパフォーマンスを期待する上でポイントとなる2大柱が、オンラインセミナーの活用と、「機会提供」から「機会奪取」への誘導、にあると私は考えています。