英語は読めるけど話せない~クラッシェン5つの仮説とビジネス英語

「英語ができるかないか」と「英語が話せるか話せないか」両者課題の違いは何でしょうか?

前者は主に学校教育での課題と言えます。学校の英語は学校のテストや大学受験で得点できる英語、すなわち、文法、語彙、正しいつづり、など全方位に対応できる英語知識の多寡を競う領域。一方、後者の課題はまさにビジネス英語における最重要課題。目前のコミュニケーションチャンスを逃してはならないビジネス界において、もはや全方位の英語力を目指す時間的猶予はあまりありません。そのためAIツールを駆使してもカバーしきれない即興対応力、つまり「英語が話せるか話せないか」が一番の課題になっていると言えます。

 

 

1.「英語ができる」と「英語が話せる」を分けて考える

守備範囲を狭めることは、短期間で英語が話せるようになるためにはとても大切です。しかし、私たちは長年学校で守備範囲の広い英語教育を受けてきたこともあり、何かを捨てたり、何かに絞り込むことにあまり慣れていません。

 

本ブログ著者には家庭教師の体験もありますが、学校は広範囲な守備範囲を求めてくることを肌で実感しました。例えば、ビジネス英語であれば、水曜日を英語で言いたい時、ウェンズディとカタカナで言ってしまえば用は足せてしまいます。またライティングにおいてもキーボードを打つ際、つづりが違えば候補単語が提示されますし、自動翻訳に英訳させるので、正しいつづりにそれほどこだわらなくてもライティングを進めていくことは可能です。

 

一方、学校のテスト対策となると話は別。手書きでしっかりWednesdayと書けないと点数はもらえません。英語を習い始めると、こうしたつづりと音声のギャップの壁が待っており、ここにかなりのリソースが使われることになります。実は初学者にとって、英語の「音声とつづりのギャップ」問題は意外と根が深いので、このあたりは動画シリーズにまとめてあります。

【音声とつづりのギャップを克服するための方略動画】

ただ、問題は学校で正しいつづりを学ぶこと自体にあるのではなく、社会人になって迅速かつ柔軟な英語運用が求められているのに、学校で染みついた完璧主義から抜け出せず、「精度に目をつむってでもその場でひとまず話す」という現場マインドセットが身につきにくいことにあります。

 

下に示した図のように、学校英語の守備範囲は非常に広いです。それに対してビジネス英語では、ひとまずは「英語力不足を理由にして話すことをためらわない」マインドセットが必要です、つまり守備範囲は「英語を話す」に狭められることが多いです。特に昨今は、AIという最強ツールがありますから、なおさら「準備してから話す」ことのハードルはかなり低くなっており、むしろAIツールでは埒が明かないような高度なコミュニケーション時の即興的な会話力が求められてきています。

 

下の図の右側「ビジネス英語」のように、話す力を❶即興的会話力 ❷定型文の活用、❸AIの活用 に分けますと、❸は英語初級者にも十分な活躍のチャンスをくれますし、❷においても単純な暗記ですから割と万人にチャンスがあります。そんな中❶ができる人の希少価値が今後さらに際立っていくと思われます。ただ、❷と❸と違い、❶は「こころがけ」「度胸」「割り切り」といったメンタルな要素に左右されますから、努力依存型の人よりも、少しでも楽に英語を運用したい人に有利な要素だと言えます。

日本の英語教育界は学校英語が前提なので、「英語ができるようになるための情報」はいくらでも探せます。一方、社会人になってから「英語運用力」そのものを向上させたい場合には、努力範囲を絞り込んだビジネス英語系の情報を検索していくことをお勧めします。

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2.AIでできること、できないこと

多忙な生活において、最小限の努力で英語を話せるようになるためにも、AIツールをはじめ、使えるものは何でも使っていきましょう。

AIを英語学習に導入する際には、AIでできることと、人間がすべきことをしっかりとすみ分けしておきましょう。以下の図の通り、ひとまずAIを使って、英語運用のハードルを下げておくことが肝要です。

 

以前、某企業より、海外からのメールは後回しになってしまい、対応が遅れ、仕事に支障が出ているという相談を受けたことがありました。英語スキル以前に「英語を扱うことが面倒臭い」とか「横文字を見るのが憂鬱」というメンタルな壁がそこにあったりします。ひとまず、英語が実際にできるかどうかは置いておき、まずは「AIさえ使えば、英語を扱うことは面倒くさく感じない」というところを目指しましょう。そのためにはむしろ積極的にAIツールの活用を推進し、上記図の右側要素(ビジネスの根幹にかかわる重要領域)については追って補っていくとよいでしょう。上記図の右側要素にいきなり進むことができるのは、もともと英語ができる上級者の領域です。上記の図をイメージしながら、まずは大いにAIができる業務を可能な限りAIにやらせ、おいおい自分なりの英語運用方略を確立していきましょう。

 

参考までにChat GPTを使った実用性の高い英語学習方略について動画で以下ご紹介します。

【AIで英会話は一層現場指向へ:業界用語編】

【AIで英会話は一層現場指向へ:業界会話編】

【AIで英会話は一層現場指向へ:英文法編】

 

 

3.実践者が体験的に証明する語学の仮説

本ブログ筆者は、TESOL(英語教授法)課程で英語習得に関する各種文献に当たってきましたが、そのほとんどが仮説であり、いまだ万人に有効な絶対的な方法論は生み出されていません。結局、環境・能力・特性が多様な人間を研究対象としている以上、「ほとんどの場合において解熱効果がある」と言えるような万能薬はありません。

 

ただ、英語習得の仮説は、どれを読んでいても、英語習得経験者であれば肌感覚として同感できるものが多々あることは事実です。今回ご紹介するクラッシェンの仮説も、私の学習体験、企業研修体験、その他英語学習者指導体験から、大まかなトレンドとしてはあながち外れてはいないと言えるものばかりです。

 

学術の世界では、一つの仮説について様々な角度から検証され、それに応じて批判も活発です。本ブログのゴールは「最終的に各自学習者がその方法で語学を習得できるか」に光を当てるため、批判や議論よりも、そうした仮説が実際のビジネス英語ではどのように応用されているかに的を絞ってお伝えします。

 

仮説や学説よりも、何よりも実践に早く進みたい方、短期間(約2か月)でプレゼン・ネゴの組み立て方をマスターしたい方には、こちらの講座もお勧めします。その場合においても、これからお伝えするクラッシェンの仮説を知っておくと、学習時の納得度もきっと違ってくると思います。

【本ブログ著者監修のプレゼンテーションの通信講座(ガイダンス動画)】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

 

4.スティーブン・クラッシェンの5つの仮説:概論

アメリカの言語学者、スティーヴンクラッシェン(Stephen Krashen)は、第二言語習得に非常に大きな影響を与えた学者の1人で、私自身、コロンビア大学TESOLコース在学中、同氏の仮説と出会い、その後の英語教育にも大きな影響を受けました。同氏の仮説は、習得・学習の仮説(Acquisition/learning hypothesis)、自然順序仮説(Natural order hypothesis)、モニター仮説(Monitor hypothesis)、インプット仮説(Input hypothesis)、情意フィルター仮説(Affective filter hypothesis)の5つから構成されており、総称として「インプット仮説」と呼ばれることも多いようです。 

 

なお、「仮説」とされている通り、これらは全て「英語習得においてこういった傾向があるように思われる」ということであって、この5つが英語習得を絶対的に保証するものではありません。学習者自身の学習歴・特性・英語使用目的などに配慮の上、柔軟に運用していく必要があります。ただ、これまで学校で習った通り、先生に言われた通り、巷の一般論などにしたがって学習したものの、今一つ「英語が実際に話せる」というステージになかなか進めなかった方にとっては、一つの方向性を示してくれるはずです。

 


5. 習得学習仮説とビジネス英語

クラッシェンは、第二言語習得を「習得(acquisition)」と「学習(learning)」に分けました。習得とは、私たちが子供の頃に日本語(第一言語)を身につけたような、自然かつ無意識的な学び方です。例えば「子供の日本語習得に要する時間が約2000時間であることに倣い、私たち成人もまずは2000時間学習すれば英語は着実に身につく」という考えは、まさにこの「習得」がベースになっていると思われます。

 

一方、「学習」は、語彙、文法など意識的に知識を取り込む学び方です。こちらは多くの大人が学校英語や受験英語で体験した学び方だと言えますね。「習得」に要する2000時間には全く及びませんが、それでも知識を使って私たちは英語を解読したり、各種テストを乗り越えてきました。

 

クラッシェンは、コミュニケーションでの流暢さは、「学習」より「習得」によるものであると考えました。これは私たちの日本語を振り返ると納得できると思います。確かに小学校で「国語」として学ぶものの、すでにその時点では日本語習得済の状態で、後付けで学んでいたように思います。例えば、すでに「書かない、書くとき、書けば」のような運用は出来ていながらも、学校で「カ行五段活用」という後付け知識が入ってきたことを思い出してみましょう。私たちがこのように日本語が話せるのは、学習もさることながら、「習得」によるものだということがイメージできるかと思います。

 

ビジネス英語の現場では、学習者は圧倒的に「学習」モードでやってきているため、受験で培った語彙力と文法力があっても、話せないという悩みが絶えません。こうしたことから、研修では「間違うこと=正確性への意識」を一旦解除させ、ひたすら話すボリュームや、与えられた時間を発話で埋めることに集中させたりしています。これを数週間続けていますと、英語発話レッスン時の自分の変化を感じるようです。その変化としてよく報告を受けるのは、「以前よりも思ったことが英語化しやすくなった」「言えない時に、別の英語表現を探せるようになった」「質問などで会話時間を埋められるようになった」というものです。

 

わざわざ英会話レッスンを受ける時間的余裕のないビジネスパーソンには、これに代わるものとして「音読」を推奨しています。先述の研修における受講者の変化には、研修だけでなく、研修時以外の自学(音読)が大きく貢献していると思われます。

【音読に気が進まない場合はこちら】

【音読をしっかりやってみたい場合はこちら】

 

6.自然習得順序仮説とビジネス英語

一般的に、子供の第一言語習得には一定の順序があると言われています。例えばアニメ「サザエさん」のタラちゃんは、「行きます」ではなく「行くです」、「やります」ではなく「やるです」と言うのも、カ行五段活用の習得はもう少しあとの段階であることを私たちに示してくれています。また、日本語学習中の外国人からもこうした発話を聞くことがありますが、日本語における動詞の活用は順序としては後の方だということがわかります。

 

この考えを英語に向けてみましょう。例えば、主語が三人称単数で動詞が現在形の場合には、その動詞にはSがつくルール(三単現のS)があります。これは知識としてはそれほど複雑でもなく、中学で習う文法ではあるものの、実際にこれを自然に使いこなす「習得」段階までは相応な時間を要します。ちなみにクラッシェンは、以下のような順番で言語が習得されていくことを主張しました。

❶進行形(ing)・複数形のs・be動詞→❷助動詞としてのbe動詞・冠詞→❸不規則動詞の過去形→❹規則動詞の過去形・三単現のS・所有格のS

実際に中学1年生を指導した際、最初の方では過去形は登場しませんでした。それでも英会話スキットは潤沢に用意されており、過去形を一切使わなくてもこんなに英会話ができることがわかり、学校の教科書はこれほどまでに練られているのかと感心したことがありました。

 

ただこの順序には、「第二言語の習得順序における母国語の影響」はあまり加味されていない印象があります。日本語に存在しない「冠詞」などは、大人の英語上級者でも迷うところですので、自然習得順序仮説については、学習者の母語への配慮と合わせて検討する必要がありそうです。

 

企業研修では、習得までの時間を要する文法事項については、ライティング時には留意するものの、スピーキング時は都度に言い直すことより会話を前に進めていくことを優先することを推奨しています。こうすることで、「文法を気にしすぎることによる、スピーキングへの躊躇」を極力抑えるように指導しています。

 

英語の自然習得順序において、日本人学習者にとってとりわけ重要なのが「語順」です。英語と日本語の語順はほぼ真逆に近く、この部分は相当意識的に鍛え、「習得」レベルまで定着させる必要があります。ただし、だからといって最初から語順に神経質になってしまうと、やはり発話が滞ってしまうため、発話手順を2段階に分け、最初は単語ベースで発話させ、そこで一定のスピードが出てきた時点で、語順に意識を向けさせるようにしています。もちろん語順が浸透している学習者であれば、この前段階は不要ですが、文法力も語順についても十分な知識があるのに話せない中上級者へは、一種荒療治として紹介しています。

【読めるのに話せない学習者への荒療治】

 

クラッシェンの「自然習得順序」をひとたび知ると、関係詞や準動詞は、学習工程においてはかなり後半であることがおぼろげにわかってきます。実際、ビジネス英語では、関係詞などを使わずとも迅速な意思疎通は十分可能です。以下の動画で示す文法は、どちらかというとリーディング力増強目的で学び、これらがスピーキングに反映されるのは、少し先のこととしてとらえておくとよいかもしれません。関係詞と準動詞は、いきなりスピーキングに取り入れるとハードルを急激に上げてしまい、言いよどみを生んでしまう恐れがありますが、リーディング目的に取り込む限りは、英文が格段に読みやすくなるはずです。ビジネス英語文脈で言うと、「話すときはシンプルかつ語順の安定に留意。読むときは関係詞・準動詞の知識を動員」というすみ分けがポイントです。

【リーディング力増強に使う文法:関係詞】

【リーディング力増強に使う文法:準動詞】

 

7.モニター仮説とビジネス英語

モニターとは、学習した言語の正確さをチェックすることです。文法規則や文型を「学習」することで、自らが発する英語に対して自分で修正を加えていくことができるようになります。

研修では、一通り正しい英語の形を学び終えた成人に対して、敢えて「間違った英文」を提供し、その間違いを探すことで、発信における正確さを身につけていただいています。以下の動画を受講者に配信し、ある程度自学をしてもらった段階で、Google Classroom上に文法テスト(TOEIC パート5の穴埋め問題に倣ったもの)を配信し、学習者の自己修正力の養成しています。

【間違い探しで、正しい英語の形を印象に残す】

 

学習者自身に「モニター」感覚をある程度身につけていただく利点の一つに、「ネイティブ依存からの脱却」があります。自分が発する英語を自分である程度チェックできないと、常にネイティブスピーカーや英語教師などのチェックや修正を必要としてしまい、自由な発信の妨げになることもあります。このマインドをほぐしていくためには、英語はイギリス英語・アメリカ英語にはじまり、世代やエリアによっても違うこと、非英語圏ではそれぞれの母語の影響を受けた英語が話されていることなどを喚起することも有効です。

 

また、モニター機能が働き過ぎると、間違いに敏感になり過ぎてかえって話せなくなり、会話の妨げになる弊害もあります。日本人に多い完璧主義、知識偏重主義を加速させてしまう恐れがありますので、モニター運用にあたっては、コミュニケーションの迅速性という視点も持つようにするとよいでしょう。その点において、じっくりと英語を精査する時間的猶予の許されないTOEICは、モニター機能の行き過ぎを抑制し、その場その場での理解に集中するよいトレーニングになります。

 

先述の「6.自然習得順序とビジネス英語」で取り上げた三単現のSについて再度見ていきます。実はこれはビジネス英語でモニター機能が発揮される文法事項のひとつでもあります。まずは三単現のSを以下に簡単に復習しておきましょう。

 

三単現のS=❶主語が私・あなた以外の第三者でかつ一人、❷時制が現在、この2つの条件が揃ったとき、動詞にSを付けるというルール

 

たとえば、I play tennis. You play tennis. They play tennis. これら3つは、❷は満たしていても❶を満たしていないので、動詞playにSをつけません。一方、Taro play tennis.は❶❷ともに条件を満たしているので動詞playにSがつきます 。これは中学英語の知識がある学習者であればだれでも間違いを見つけられます。ということは、三単現のSの間違いは「その英文を見直しせずに発信した」とビジネスパートナーに受け取られる可能性があります。全体的に粗削りな印象を持たせるような非ネイティブ英語であっても、三単現のSさえ間違いなく使われていると、「非ネイティブなりに一度は目を通した英文であること=コミュニケーションへの誠意」をそれとなく相手に示すことができます。

 

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8.インプット仮説とビジネス英語

クラッシェンの5つの仮説の中で本ブログ著者が最も重要だと考えているのがインプット仮説です。実際クラッシェン自身もインプット仮説を第二言語習得において最も重要だと主張しています。インプット仮説とは「学習者の言語能力は現在のレベルよりもわずかに高いレベルの理解可能なインプットにより進歩する」という考えです。クラッシェンは、現在の言語レベルを「i」、わずかに高いレベルを「i+1」と表現しています。

語学で、いくら勉強してもわけがわからない感覚が消えない場合、このインプット仮説に立ち返ってみる必要があります。例えば、小学高学年や中学1年生に英語を教える際、英語以前に、ローマ字と英語の違いで混乱し、そこから先になかなか進めないことがあります。その場合、ローマ字と英語の違いを知ることを「i」とすると、「リンゴはローマ字ではRINGO、英語だとAPPLE、猫はローマ字ではNEKO、英語ではCAT」と言うような個々の単語でローマ字と英語の違いを確認していく作業の方は「i+1」と考えることもできそうです。

【学びはじめに混乱しやすいローマ字と英語の違い】

【つづりへの素朴な疑問に答える】

インプット仮説の運用の難しさは、i+1の(i=現在の言語習得レベル)と(1=理解可能なインプット)を具体的にどうとらえるかにあります。以下に考えられるi+1の事例を並べておきます。なお【×】の中はあきらかに(i+1)のレベルを超えているため、消化不良を起こすやり方です。

❶ (i = 長い英文を一回聞いただけでは理解できない)→(i+1=フレーズや構造単位で英文を一旦止めて聞く)【× ひたすら聞いて理解できる日が来るのを待つ】

❷ (i= 英文が速くて聴解が追い付かない)→(i+1=英文の速読トレーニングを行う)【× ひたすら早口に聞こえる英文を聞いて慣れるのを待つ】

❸ (i =英文中の知らない単語の比率が5割を超える)→(i+1=しばらくの間単語学習だけを行う)【× わからない単語が5割超えても気にせずに英文を読み続ける】

 

 

9. 情意フィルター仮説とビジネス英語

クラッシェンは、いくら理解可能なインプットを続けていても、不安感や無力感などネガティブな感情があると、それらが情意フィルターとして習得の障害になると考えました。言語習得に関わる情意要因として、クラッシェンはmotivation(動機づけ)、self-confidence(自信)、anxiety (不安)を挙げています。つまり、動機が強いほど、自信があるほどに、情意フィルターは低くなり、言語習得はしやすくなります。一方、不安が強くなるほど情意フィルターは高くなり、言語習得に支障が出るということです。

 

以前、日本テレビ系列で放送されている番組「世界の果てまでイッテQ」の中に、「出川哲朗はじめてのおつかい」という企画があり、一時期、英語教育界で話題になったことがありました。海外でも全く物おじせずに、カタカナ英語を駆使して、ミッションを達成してしまう姿は、まさに情意フィルターが低い状態のモデルでもありました。テレビで作られた風景をそのまま現実のビジネスやコミュニケーションに応用することは危険ですが、少なくとも、情意フィルターが低い状態で、ある程度モニターも稼働させていくのが、上手な英語コミュニケーションのあり方であることはイメージできるかと思います。

 

10. まとめ

いかがでしたでしょうか?クラッシェンの5つの仮説には、それぞれに批判はあるものの、英語学習者として体験的に納得できる部分も多々あるのではないかと思います。また、一般のビジネスパーソンの場合、欲しい結果を設定したら、あとはそれに最短距離の方略を決めて実行すればよいので、教育界の議論について深入りする必要はないと思います。大切なのは、巷にあふれている各種理論を過信することなく、自分の体験と肌感覚を信じながら、都度に学習方略を微調整し、極力非効率なやり方を回避し、学習に無用なストレスや挫折感をもたらさないことです。

 

語学の救いは、【理解可能なインプット】を続けている限り、遅かれ早かれ上達は水面下で着々と進んでいることです。またこのことをひとたび英語で体験すると、他の外国語、あるいは他の領域にも応用できるようになり、人生や仕事における、ポジティブの連鎖が次々と起こります。多くの人が欲する「コツコツ積み上げる力」も、英語学習を通じて、「気が付くと」身についていたりするものです。ですから、語学にはある意味失敗というものはない、と考えることも可能です。もちろん失敗とまでは言わずとも、遠回りと言われるものはいくらでもあります。しかしそれも貴重な気づきにとって必要な回り道と考えればどうってことはありません。こうした楽天的な考え方は、最後に紹介した【情意フィルター仮説】に通じるものがありますね。

日々の英語学習の参考にしてもらえたらうれしいです。