前述の表からわかるように、実務ではリスニング力不足をカバーする方法が色々あります。実際に英語を使って仕事をしている人達の間では、あまりTOEICのスコアが話題に上がらないのも、企業研修で実務で英語を使っている人の方がそうでない人よりもTOEICスコアが決して高いわけではないのも、こうした現場の知恵を駆使して皆さんサバイバルしていることも背景にあると言えましょう。

研修時、生徒さんからこんな報告を受けました。

「シンプルな英語を使うようになったら、コミュニケーションのスピードが上がり、会議も早く終了するようになりました」

これは、英語が苦手な私たちの方がシンプルな英語で簡潔な発言を心掛けることで、ネイティブ側の無駄話や、話の冗長さが緩和されていったことも要因として考えられます。つまり非ネイティブでも英語コミュニケーションをコントロールすることが可能だということですね。

また、とある企業のIT部門ではインド人技術者が多く、彼らの早口英語が悩みの種でした。そこで立てた方略の一つ目は、日本人側はあくまでゆっくりと話す姿勢を保つことでした。彼らの早口に合わせてしまうと、どんどん彼らのペースに飲み込まれてしまいますので、最低でも自分の方はペースを崩さないようにしました。次に立てた方略も、やはり早口英語を牽制するために、会議には可能な限りの質問を用意して臨むことにしました。実際私自身も、外国人の前でプレゼンするときは、「がんばって流暢に話す」戦術を手放し、許される範囲でゆっくり目に話すことを心掛けました。おかげで英語そのものを褒められることはありませんでしたが、代わりにプレゼンの内容が他のネイティブたちよりもわかりやすかったと言われました。私のプレゼンから、プレゼンターが非ネイティブであることが十分伝わったためか、早口でまくし立てるような質問には遭遇しませんでした。非ネイティブというのは、上手な英語や流暢な英語を目指す上ではハンディになりますが、平易な表現でわかりやすく簡潔に伝えるという点では、むしろ優位に働くこともあります。何よりもリスニング力不足をカバーする上ではとても重要な戦術です。