Chat GPTも動員!英語が苦手な社員向け自学&企業教育施策15選~グローバル人材育成(語学)のヒント

情報アップデートが激しい現代において、コツコツ時間をかけて習得する英語には「低コスパ」のイメージがつきまといます。ただこのイメージは多分にこれまでの私たちの英語学習歴によるところが大きいため、これまでの自分の英語学習歴と、これからのAi活用型の英語学習とを分けて考える必要があります。

 

コスパ文脈で言うなら、Chat GPTや自動翻訳を総動員して、「今伝えたい」「今知りたい」要求を満たし、AI活用型英語学習の「高コスパ」の恩恵を先に味わってしまいましょう。その上で、こうしたAIツールを自由自在に扱うために必要な速読力・文法力、将来生身の人間とやりとりする際に必要なオーラルコミュニケーション力を磨いていきましょう。

 
 

1.避けて通れないAIツール

AIツールのヘビーユーザーとして痛感するのは、結局AI前時代以上に、ユーザーに英語力が求められることです。試しにまったく理解できない言語で自動翻訳してみると、そこに生成された外国語文が完璧なものなのか、ほぼ及第点のものなのか、かなり質的に問題を抱えているのかが全くわからず、AI頼みのリスクを直接肌で感じることができます。私自身、中国語学習にAIツールを使った際、そのことを実感しました。

【Chat GPT は成長途中~上手に疑い・調べ・活用しよう】 

人は一度便利なものに慣れてしまうと戻れません。知識やスキルのアップデートに忙しい社員たちには、まずはAIツールの恩恵に浴してもらいつつ、AIツールリテラシーの文脈での語学力という視点を喚起していくのが現実的かもしれません。

2. 企業教育施策と自己学習の連携

AIツールの台頭により、自己学習でできることの幅もかなり広がりました。実際のところ、私自身、日頃の講義のウエートをかなり減らして、その分、YouTube動画の視聴やそれらに連動させたテストをGoogle Classroom内で展開しています。学習者は自宅にいながら、あるいはスマホで場所を選ばずに学習ができるので、課題の提出率はかなり高いです。また、AIツール前時代の授業と比較しても学習者の学習量は確実に増えている実感があります。

 

以下の図は、学習者の集中力はAI前後で変わらないという前提に対して、AI前は、授業での情報量も日々の自己学習も学習者のキャパをかなり超えているという印象を示しています。一方AI後は、説明的な要素を動画に移行した結果、授業はかなり実践的要素中心となり、長い座学の退屈さはだいぶ緩和された印象があります。また自学においても、スマホで好きな時間にショート動画形式で学べるため、学習者が感じる【負荷】はAI前よりはだいぶ緩和されている印象があります。

 

下記の図における授業も自学もAI前よりAI後の方が大幅に小さくなっているのは、あくまでも学習者の【負担感】を表したものであり、純粋な学習量はAI前よりも増えていると思われます。(そう胸を張って言えるだけの自学動画視聴課題を私が日々の授業において学習者に提供しているということでもありますが…)

企業教育施策においても、このような講義+自学のハイブリッド型教育の利点を生かさない手はありません。敢えて集合研修のウエートを下げ、自学ウエートを上げて、社員の時間的拘束を可能な限り抑制する。その一方で、オンラインではなかなか難しい対人コミュニケーションならではの手ごたえを集合研修に凝縮させていく発想も必要でしょう。

 

著者も2年間のオンライン授業を経て、現在はオンラインと対面のハイブリッド講義を展開していますが、自学ウエイトを引き上げた分、授業自体が非常に凝縮されたものとなり、受講者の集中力もAI以前よりもかなり改善されたように思います。「伝えたい情報を全て授業に盛り込みたい教育者側と、受講者側の集中力の限界とのせめぎ合い」というような余計なストレスから双方ともに解放されています。したがって、AI以前よりも受講者の頭はスッキリしているように見えます。英語以外にやりたいことをたくさん抱えているのが一般の受講者ですので、AIツール台頭による、自学対面バランスの最近の劇的変化は双方にとって望ましい現象だと私個人はとらえています。

3.すぐに手に入るものから始めよう

 1)Chat GPTで日英情報の質・量の違いを体感しよう (アイディア1)

現在一番論議を呼んでいるAIツールと言えば、Chat GPTでしょう。

調査対象の課長の半数がChatGPTを使ったことがないという報告を最近耳にしました。私も、製造業界隈で知らない人が案外多いという報告をSNSで読んだことがあります。このような現状を踏まえ、Chat GPTについて簡単に説明しておきます。

 

チャットGPT(ジーピーティー)とは、米国の企業であるOpen AI社が開発した、人工知能(AI)を使ったチャットサービスです。人間の質問に対して、自然でクオリティの高い回答をします。GPTは「Generative Pre-trained Transformer(ジェネレーティブ・プリ・トレーニド・トランスフォーマー)」の略で、Web上の大量のデータをもとに学習する文章生成言語モデルを指します。

とあるデータサイエンティスト曰く、Chat GPTの使用言語を日本語とするか英語とするかで、情報の質と量が全く違うようです。情報の質・量が決め手のビジネスであれば、Chat GPTは基本的に英語で扱うのが理想です。

この点において、意外に重要なことはキーボードを英語でたたくことへの心理的障壁の低さです。

 

著者がTOEIC SW(スピーキング・ライティング)テストを受講したときのことです。普段使っているパソコンとキーボド操作が違うだけで、かなり不便を感じたことがあります。その時思ったのは、英語力云々とは別次元での、キーボード慣れは、英語運用にとって重要な課題の一つだということでした。こうしたことからも、「Chat GPTの使用言語は原則英語(海外情報を一切不要とする特殊ケースは除く)」という約束事を決めるのも一計でしょう。

【Chat GPTで激変する英語学習】

 

2)Chat GPTで専門用語の定義化(アイディア2)

ビジネスパーソンが英語学習にChat GPTを使うにあたり、一番お勧めするのが「Chat GPTによる専門用語」の定義化です。

 

著者が外資系時代、売上目標の用語における役員側(ほぼ外国人)と営業現場(全員日本人)の認識の齟齬によるミスコミュニケーションを体験しました。当時売上管理指標として、Budget(管理職に達成が課せられた目標), Object(管理職の裁量で現場に落とす目標), Forecast(現実的な売上見込み)というものがあったのですが、これらの定義づけがそれぞれの立場で微妙に違っていたことが判明し、改めて用語定義を共有したことがありました。

 

日々新しい概念や専門用語が量産されていく現代において、英語学習者にとって、専門用語は格好の語彙学習の材料と言えるでしょう。しかも、英語での定義を作成する際には、多部門間で認識を共有できるよう、難解な表現を回避するために、英文を色々と推敲しなければなりません。決してChat GPTが生成した結果をそのまま使うわけではありません。

これまでのように市販の単語帳でひたすら与えられた知識の暗記に励むのではなく、一度はChat GPTに生成してもらうものの、そこから先はユーザー自身が色々と調整していくため、エディター的なセンスや思考センスも磨かれていきます。

【Chat GPTで自社オリジナルの用語定義集を作ろう】

3)Chat GPTの活用法を社内で共有する(アイディア3)

私自身、Chat GPTの活用法についてはまだまだ探し切れていないと思っています。これは日々使いながら模索していくしかありません。その点、企業であれば数の力を借りて、各自が見出した活用法をどんどん共有化していくことができます。英語表現なども、一人一人が同じメッセージなのに、英語化に苦戦するのはもったいないことです。

 

シチュエーション別定型表現を社内で共有してしまえば、パターン化できるような定型業務での英語表現にかける時間は激減し、その分、もっとクリエイティブなことを議論するための英語力に社員のリソースは注がれていくことでしょう。もちろん、そのクリエイティブな議論に耐えうる英語力となると、やはり社員自らの英語力が肝となるため、ここに英語学習のニーズは厳然として存在し続けます。

 

4)機械学習と人間学習(アイディア4)

AIはAIで人間のキャパを超えた情報処理力で日々成長し続けます。人間は人間で、そうした機械ではできない部分でのセンスを磨いていく必要があります。そのためにも、「ここはAIに任せる」と「ここは自分たちで精進していこう」という努力の仕分けが必要です。こうした知恵の出し合いを促進できることも対面研修ならではのメリットです。

 

残念ながら、与えられた単語を覚えるとか、テスト勉強だけでは、この部分はなかなか鍛えられません。ここはむしろ社内に相当数存在するであろう「可能な限り英語はAIに任せて自分は勉強の重荷から解放されたい」という方の意見もぜひ聞いてみたいところです。英語学習にありがちな、「勉強しないと負け」「楽すると負け」という従来の発想から自由になっていただくのも対面研修の醍醐味です。

5)発音コンプレクスの克服はChat GPTで(アイディア5)

たとえば市販教材を音読する際、Chat GPTのマイクボタンを押して、自分の音読を録音してもらい、それを文字化してもらいましょう。市販教材通りの英文が再生されれば、ひとまず発音は及第点だと判断できます。私自身、この機能を使い、中国語で試しましたが、誤認識率は1割未満でしたので、ひとまず中国語の発音は及第点としておきました。もしも誤認識率が極端に高ければ、おそらく何らかの形で発音レッスンを受けたかもしれません。ただ、英語の場合、気を付けるべき発音はかなり限られているため、以下の動画で発音のイメージを作っておけば十分かと思います。

 

以下の動画でChat GPTの発音チェック手順を紹介しています。実はカタカナ発音でも誤認識は全くされませんでした。この結果をどう解釈するかは人それぞれだと思いますが、実際にカタカナ英語でほとんど通じてしまうビジネス場面を体験した著者としては、これをカタカナ英語で果敢に話し進めていくモチベーションに使って欲しいところではあります。なぜならば、外国人が私たちの発音に期待していることは、言いたいことがわかる程度のものであり、それ以上の発音品質は期待していないからです。正直、個人的に発音のハードルは中国語の方がはるかに高いと感じていますので、中国語の発音チェック用途の方がお勧めかもしれません‥‥。

【英語の発音:Chat GPTを使った発音チェックの実演動画】

【英語の発音:LとRのイメージングが決め手】

 【Chat GPTで中国語の発音チェックをしてみた】

6)Chat GPTで要約(アイディア6) 

続けられる英語学習のポイントは、自分の関心事や本業に英語を引き寄せること。「まず英語を勉強しよう」から「まず〇〇の情報を海外サイトから手に入れてみよう」へ。そこで手に入れた英文記事をChat GPTにコピペして、要約を依頼します。要約文は内容理解としてだけでなく、それを使ったショートトーク練習にも使えます。

 

なお要約は以下の手順で行えます。

❶Please summarize the following message within 200 words.などのような英文を入力 

❷入力した英文の下に、要約してもらいたい英文をコピペする。その際” ”で囲む。

 

要約された英文を読解して終わらせるのはもったいないです。特に自分の本業や関心事に関する英文であれば、自分でも話せるようになっておきたいところです。「自分の関心に寄せた英文は自分でも話せるようになっておく」がスピーキング力アップのコツです。発信トレーニングについての詳細は以下の動画でご確認ください。

【Chat GPTが生成した英文を発信力に変える手順】

7)Chat GPTで業界・職種調整(アイディア7)

ビジネス英語には二つのアプローチが必要です。一つ目は業界・職種に関わらず普遍的に必要な領域。もう一つは業界・職種に特化した企業あるいは個人オリジナルの領域。私はビジネス英語観連の教材制作に長年携わってきましたが、それは概して一つ目の領域に関してのものが中心でした。

 

しかしながら、今後は、普遍的なビジネス英語を学ぶことと並行して、自社の業種や自分の職種に特化した英語コンテンツも並行して使っていくことを提唱していこうと考えています。このような英語教材のカスタマイズ化の決め手となるのがChat GPTの活用です。もちろんChat GPTが生成した英文コンテンツについては、内容面での精査と、英語面での精査両方が必要となります。特に後者においては、平素の英語学習が決め手となりますから、これまでの英語学習はぜひそのまま続けていきましょう。制作の際には、業務に精通した社員と、英語力上級の社員との協働でやっていただくのが理想的です。

【自社の業種・自分の職種に特化したオリジナル英会話スキットの作り方】

8)動画の活用術(アイディア8)

自社動画はもちろんですが、競合他社や関連企業の動画、その他一般的ビジネス動画を視聴する際、字幕を英語に設定して視聴してみましょう。機械翻訳であるためか、誤訳も訳し漏れもかなり目につきます。しかしその不完全さは、むしろ私たちが突然通訳を任命されたときの状態によく似ているとも考えられます。人間の通訳では、日本語が長すぎて翻訳が追い付かないこともあれば、咄嗟の翻訳で誤訳していしまうこともあります。自動英訳の不完全さには目をつぶって、機械なりにどのように翻訳をしてくれているのかその思考プロセスの方を観察してみましょう。かなり参考になるところが多いはずです。

 

ちなみに外国企業のプロモーション動画などは完璧な英語字幕が楽しめますので、そちらと比較してみても面白いかもしれません。

もしとある会社について精査したければホームページ上の各種報告書を読むのがベストですが、日本語ですら膨大な活字を消化するのが大変であるのに、それが英語となればハードルはかなり上がってしまいます。こういう場合は、ぜひ手軽な動画で代用しましょう。

 

4.AI時代に加速する!人間がしなければならない英語学習

1)膨大な返答を即時に吸収する速読力(アイディア9)

チャプター3までは、Chat GPTの活用術についてお伝えしてきました。ここからはChat GPTをはじめあらゆるAIツールを使い倒すために必要な英語力についてお話します。

 

実際に使った方は実感すると思うのですが、とにかく字数制限をしない限り、Chat GPTは膨大な情報をたっぷりアウトプットしてくれます。この時に、英文の速読力の必要性を実感します

もちろんそれらの和訳もChat GPTに依頼できてしまうのですが、ここはGoogle 翻訳同様、多少の誤訳や訳し漏れが避けられません。やはり自分で直接英文を読めるに越したことはありません。企業の教育施策では、最初にChat GPTを色々と使ってもらったうえで、そこに出てきた英文の回答をどのように速読していくかを学んでいただくのも一計です。また、速読しつつも、その英文について情報としての評価や、英文としての読みやすさについてディスカッションしてもらってもよいでしょう。

 

特に内容の精査については、その領域に詳しい社員ならではの感想がきっとあるはずです。私自身、語学に関する質問をたまに投げるのですが、プロ目線で言うと、あまりにも常識範囲内なので、この情報に甘んじていては何も新規性のアイディアは出てこないという印象を持ちました。つまり、アイディアと言う点ではやはり人間が体験や日々の思考の先に生み出すものだという認識を深めているところです。Chat GPTはそうした新規性に富んだアイディアを出す手前の情報収集が得意な印象があります。ただ、これは私自身の使い方が浅いというだけなのかもしれませんので、ユーザーとしてのセンサーはこれからも磨いていくつもりです。

まずはせっかくChat GPTが出力してくれる英文をしっかり吸収できるだけの速読力と、そのベースとなる精読力をしっかりと学習していきましょう。

2)発信英語に確信を持たせる文法力(アイディア10)

ここで発信に必要な自信について見ておきましょう。著者が定義する「発信の自信」は2通りあります。一つは自分の発信に対する自信です。「もしかしたら間違っているかもしれないけれど、少なくとも私はしかじかの文法的根拠を持ってこの英文を作った」というような自信。そしてもう一つは相手がたとえネイティブスピーカーであれChat GPTであれ、「文脈的にここはこのように訂正した方がよいのではないか?」という相手側の英語を修正できる自信です。実際のところ、Google翻訳を使っていると、この類の自信や判断力が求められる場面によく遭遇します。「AIが出した英語だからOK」「ネイティブが発した英語だからOK」という短絡的思考は、むしろAIを使えば使うほど後退し、「非ネイティブとしての判断力(with 勇気)」が育ちます。

 

こうした自信の根底にあるのが文法的な自信です。ネイティブ表現として自然かどうかはさておき、文法的に正しい英語を発している限りは、私たちは自分の英語を必要以上に卑下する必要はありません。実際、印刷物で展開される英文はかなり保守的です。例えば各方面から、「the man whom I metが正当な表現でありつつも、the who I metがかなり浸透してきている」という論説を聞き、実際私自身もそれを疑っていなかったのですが、出版物においては圧倒的に前者の事例が多いことを最近知りました。巷にあふれる「ネイティブはこう言う」とか「日本人は文法的には正しくても、表現が硬すぎる」等の論説は謙虚に受け止めつつも、自分の文法を基準とした英文精査力は「堂々たる発信」の源泉になっていることを実感しています。

【Google Ngram Viewerでわかる、文法的なトレンド~ the man whom I metとthe man who I metの比較】

3)すべてのやりとりに音声を絡ませてリスニング力鍛錬(アイディア11)

リスニング力アップの秘訣は、とにもかくにも日々の学習で遭遇する英文を音声で聞くことに尽きます。これには、私たちは圧倒的に視覚で情報を処理しているという背景があります。つまり目で一通り情報を追いかけられれば、それで理解できたと認識しているということです。リスニング盲点はまさにここにあります。読めば全く問題なく理解できるような英文でも、音声だけで聞くと、実はかなり理解しにくい、あるいは情報が追いかけにくいことがわかります。TOEICを受験した方であればわかるかもしれませんが、TOEICのリスニング問題は「リーディング問題として出題されたら楽勝なレベルの英文」だと感じつつも、音声のみで、しかも一回だけのリスニングであるために、なかなか納得いくスコアが出なかったりします。

 

Chat GPTに生成してもらった英文は、基本的に自分の質問や依頼から生み出されたものです。つまり自分が一番関心を寄せられる英文でもあるわけです。この英文はぜひ音声でも一通り確認しておくことをお勧めします。以下にChat GPTが生成してくれた英文をMcrosoft Wordにコピペして音声読み上げをしてもらっている動画です。

【音声読み上げ機能を使った英語学習】

4)「英知交流体力」を鍛えておく(アイディア12)

AIツールを使うにしても、仕事となるとそのボリュームに耐えられる英語体力が必要です。さらにポストコロナ時代にあって、これから実際に人と会ったり、Zoomによる手軽な会議のニーズはさらに加速することを想定すれば、長時間の英会話に耐えるたに、やはりここでも英語体力が求められます。さらにはその議論のベースとなる私たちの母国語ベースでの知識や思考力も相応のものが期待されるようになるでしょう。単純労働はAIに任せられる分、人間が活躍できる領域はどんどん「思考」「創造」「リアルコミュニケーション」にシフトしていくから当然の流れです。

 

英語ならびに知識の運用、対人コミュニケーションに求められる「英知交流体力」がこれから必要です。そのためにやるべきことは三つ。

 

一つ目は英語体力で、TOEICでまずは2時間の英語モードへの免疫を今から身に着けておきましょう。著者自身、このTOEICのおかげで、外国人との終日のリアルコミュニケーションをやりすごすスキルが身につきました。ただし、このスキルは、終日集中力を持続させるためのものではありません。むしろ不十分なリスニング力でもやりすごせる【逃げ技】と言った方がよいかもしれません。

 

自分に関係ない時は耳をお休みしたり、自分の発言=耳のお休み時間ととらえ、なるべく自分から発言をして、会話の自分がマネジメントできる範囲に収めるように誘導したり、ジョークがわからなくても適当な笑顔でやり過ごすなど、リスニングの負担を軽減する諸々の作戦をリアルコミュニケーションを通して私たちは習得できるのです。その入り口が2時間のTOEICと言えます。

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二つ目は思考です。先日Chat GPTに中国語学習のアドバイスを求めたのですが、あまりにも当たり前すぎて、全く参考になりませんでした。言い換えると、ひねり、だとか、そのアドバイザーならではの個性、一般的な論調にある盲点、そういう生身の人間ならではの、説得力がほとんどないのです。やはりAIには、元になるネット上の情報や、翻訳の下になる元言語など、なんらかの前提が必要。ゼロベースで突拍子のないことを空想・妄想できるのは人間の特権です。

 

平たい言い方をすれば、どらえもんの「どこでもドア」や「ほんやくこんにゃく」のような妄想こそが人間の得意とするところだと言えます。「世界で人口が最も多い都市は?」的な知識はAIに任せ、人間は「見えていない問題を見つける力」、「あまたある問題の中で優先順位をつける力」、「羅列的な発想を超えて、何をやらないかを決める力」など、AIがまだ苦手とする領域での能力を磨いていきましょう。

 

そして最後はコミュニケーション力です。ここで気を付けたいのは、コミュニケーションはリアル会話だけでないということ。特に言語が英語の場合、リアルコミュニケーションに至る前の文字テキストベースでのコミュニケーションが非常に有効です。これによりお互いのスタンスもわかりますし、共有できる情報も増やしていくことができます。ここで場合によっては自動翻訳を使うことになりますが、その際、その翻訳文が妥当なものかを判断するための英語力がどうしても必要になります。逆説的ですが、AIを駆使しようとすればするほど、精査のための英語力がどうしても不可欠なのです。

 

ビジネスの現場で非ネイティブの私たちが使う英語をシンプルに表現すると、「中学英語+専門用語」となります。参考までに、中学英語を駆使しつつも、論理的にクリアな英語を展開するアドバイス動画をご紹介します。

【中学英語でかつ論理的に伝える力:図解英語スピーキング攻略】

 

 

5.英語の根底にあるロジックを身に着ける

1)通信講座の活用(アイディア13)

とある企業で研修を設計するにあたり、エンジニア数名にヒアリングをしたことがありました。私は彼らに同じ質問をしました。

 

「プレゼンテーションを学ぶ際、業界を限定しない一般的なプレゼン技術と、貴社の業界に特化したプレゼン技術。どちらを優先的に学びたいですか?」

 

私にとっては意外な回答だったのですが、皆、前者、すなわち「一般的なプレゼン技術」を希望しました。

 

本記事の前半は、英語コンテンツをChat GPTなどを使いながら、なるべく自分達の業種・職種に引き寄せて学ぶことを提案してきました。しかしもう一方で忘れてはならないのが、まさにこの業種・職種を超えた一般的なビジネス英語スキルなのです。

 

実はプレゼンもネゴシエーションも、業種・職種、あるいは個々の事情を超えた「普遍的かつ言語化されたスキル」は存在します。つまり経験値の低い新入社員・若手社員でも「膨大な体験の積み重ね」を待たずに、知識として「学習」することができるということです。意識的な知識学習の必要性は、AI時代に加速していると私は感じています。またこの知識こそが、世代間、個人間の「体験値の著しい違い」を超えていくカギにすら思えます。たとえば体験値が充実している中高年が、この体験の呪縛から自由になるために有効なのが「知識学習」です。また、体験値が低い若手がそこをクリアしていく上で同様に有効なのが「知識学習」です。つまり、知識学習によって、個人間の体験値の違いをチューニングしていくことが可能なのではないかという仮説ですね。

ビジネス英語の肌感覚をキープするために私が今やっている学習教材を以下にご紹介します。

【論理的思考を英語プレゼンとネゴシエーションで磨く】

【英語でビジネスコミュニケーション実践編:プレゼンテーション・ネゴシエーション(詳細情報)】

上記講座でも触れてはいますが、プレゼン・ネゴ両スキルにはちょっとしたコツがあります。

 

プレゼンであればスライド。個々のスライドをつなげるとクリアなストーリーが見えること。一枚のスライドに盛り込む情報を可能な限り少なくすること。グラフの使命は「わかりやすさ」「良い意味での印象づけ」なので、文言同様シンプルを心掛けること。言い換えると、「全てちゃんと盛り込みましたから伝え手の私には落ち度ありません」という後々の言い訳の材料にスライドを利用しないことです。どんな仕事でも、のちのち「あれについての言及がなかった」「それについて欠けていた」というクレームをいただくことはあります。だからといって全部盛り込んでしまうと、結局は誰が読んでも情報過剰でわかりにくいプレゼンに仕上がってしまいます。この個々の聞き手の不満を吸収するのがプレゼンのあとのQ&Aであったりアンケートなのです。つまりプレゼンで前方位に全て盛り込むことをあきらめ、そうした詳細フォローは別の機会にすることにすることで、プレゼンはシンプル簡潔な方向へと進んでいきます。

 

ネゴのコツは、スキルの見える化です。まずは日常のあらゆるコミュニケーションをネゴ教材制作者目線で観察してみましょう。そこには様々なネゴスキル要素が存在しています。私は自宅仕事が多いためセールスの電話をよく受けるのですが、このやりとりすらも、ネゴスキルの観察のよい材料になります。「ああ相手側はここを推したいのだな」「私はそこじゃなくて、その向こうに意識が向かっているな。ここは相手に伝えておくことで、多少は目線が合うかな?」などなど色々思考をめぐらせながら、セールスパーソンとのやり取りを楽しんでいます。実はこの事例からわかるのは、「互いが描いているゴールやベネフィットの相違」ということ。こうしたことすらもひとつのネゴスキルとして言語化することは可能なのです。

2)反復にバリエーションを(アイディア14)

どんな教材を使うにせよ、「反復」が基本です。しかし反復は同じことの繰り返しであるためいずれ「飽き」がやってきます。そのためにも、反復に様々なバリエーションを持たせることが肝要です。

私個人の意見ですが、反復の退屈さを打破する最終兵器はアウトプットにあると思っています。アウトプットは何も他人という受け手が常に必要とは限りません。自分による自分のためだけのアウトプットであれば、相手がいなくてもいくらでもできます。

 

自分の事例で恐縮ですが、私自身、中国語をどれだけ音読しようがリスニングやリーディングしようが、どうしても中国語が単なる文字の羅列、音の羅列にしか認識できず、どうしてもそこに意味や構造がつながりませんでした。そこである実験をしてみました。英語講師の体験を生かし、自分自身が中国語講師になって、自分自身にレクチャーをやってみたのです。

すると私に大きな変化が訪れました。自分がレクチャーした中国語文が面白いくらいに、私の中に入ってくるのです。無理に暗記しようとしなくても、頭の中でいくらでも文を組み立てられてしまうのです。中国語初級者の私でもわかるように、特に私自身が苦手な四声(中国語の4種類のイントネーション)や、音を聞いて即漢字が頭に描けるように講義しました。

こうしたことを文字ベースであればtwitterで、音声ベースであればstand FM でやってみるとよいかもしれません。

【今でも私自身のために続けている「英語講師の中国語レッスン」】

 3)あらゆるタブーに挑戦~手始めに「日本語から始める」(アイディア15)

先述した「英語でビジネスコミュニケーション実践編 プレゼンテーション・ネゴシエーション」は中上級者向けではありますが、英語初級者やビジネス体験値があまりない若手に対する「プレゼンとネゴの導入書」という使い方もできます。プレゼンにおける話の流れ、ネゴにおける様々なテクニックの使い方、などは日本語訳のスキットや日本語での解説を読むだけでもかなりイメージできると思います。実際にユーザーの方から「日本語でのプレゼンやネゴをどう進めればよいか知りたかったので参考になった」「お手本になるような日本語だ」とフィードバックをいただきました。

 

「日本語から始めてみる」の利点を挙げておきます。

 

❶論理構成がつかみにくい内容の場合、日本語でしっかりつかんでおくと英語が読みやすくなる。

 

❷専門性が高いコンテンツの場合も、日本語でしっかり理解しておくと英語が読みやすくなる。

 

❸内容をあらかじめ知っておくことで、かえって英文そのものの構造分解に集中できる。

 

❹ビジネスコンテンツの場合、英語以前に、日本語の表現や論理構成自体がビジネスパーソンの参考になることも多い。

 

英語学習のコツは、鍛えたい部位をなるべく絞り込むことです。たとえば英文の構造に集中したいときは、先に和訳を読んで意味をしっておく、知らない語彙も和訳でチェックしておくことで、それが可能になります。つまり、一つの英文を読むときに、発音、文法、語彙、文意、すべてを一度に吸収しようとするために、消化不良が起こる可能性もあるということです。英文を読んだり聞いたりするときに「お手上げ感」があるときは、一度にいろいろなことをやってしまおうとしていないか見直してみましょう。

 

6.根性に逃げない時代へ

とある若手Webマーケターとやりとりしてわかったことがあります。次々とマーケティング的アイディアをいただきながらも、結局は成果を出すためには、膨大な地道な努力がこれまで以上に必要だということを教えていただきました。そうなのです。昭和・平成とは違う意味での「根性」はやはり必要なのです。語学も同様です。AIツールを軽々と使い倒している方たちは決して多くは語りませんが、その大前提に英語力があることは明らかです。

 

ただひとつAI前と違うことがあるとすれば、思考と創造をメインにしながら、サブとして英語を身につけていく。あくまでも本業を際立たせるための「重要な脇役としての英語」という側面が今後一層浮き彫りにされていくことでしょう。言い換えると、「その根性は本当に必要か?」「その根性はゴールにつながっているか?」「その根性はビジネス的にも人生的にも本質的なものか?」という「根性への問い」がかつてないほど求められている時代を私たちは生きているのだと思います。

 

そいう意味では、根性に逃げてはいられない時代。何をがんばるべきかを問うと同時に、何をがんばらないかも冷静に考える。英語はどこまでやればいいか?を考える。英語さえ極めれば道は開けるというようなふわっとした希望的なものも悪くはないけれど、今の時代やるべきこと、考えるべきことが多いので、時間を食う英語は、本当に賢く運用した方がいいと思います。

 

企業教育施策においても、多忙な社員に必要以上の負荷をかけない英語教育という発想が必要です。ぜひ一緒に考えていきましょう!