英語脳とは?英語が覚えられない人にも勧めたいアプローチ12選!~グローバル人材育成(語学)のヒント

「英語脳」という言葉があります。「英語を日本語に変換することなく、英語のままで理解する状態」のことを言うようです。Thank you.と言われた瞬間、「ありがとう」という日本語にいちいち変換しなくても理解できるので、「英語脳」の状態であると考えられます。あるいは挨拶の定番「How are you?」もいちいち「ご機嫌いかがですか?」と訳さず理解し、日本語の「元気です」を通過せず、ほぼ反射的に「I’m fine.」と言うのも、英語脳状態と言えます。こういう領域を増やしていくためにはどうすればいいのでしょうか?今回はその「英語脳」の育て方についてみていきます。

 

I.英語脳とは?

1.英語力を再定義しよう

1) 成人の「もう学校に行かなくていい」「もうテスト受けなくていい」の意味を考える

突然ですが、皆さんに質問です。

「成年にとって英語学習の最大の強みは何?」

少し乱暴な言い方になりますが、その答えはこんな感じです。

「文法知識がいまひとつでも伝わりさえすればいい」「正しいつづりが書けなくても伝わればいい」「何度忘れても、何度間違えても、問題ない世界が確実に存在すること」です。

これほどの自由はないのではないでしょうか?その一番の原因は「学校に行かなくていいし、学校のテストで良い点数をとる必要がもうないから」です。

しかし未成年者の場合、どうしても学校のテストで点数を取るためには、学校に通いテスト動向にキャッチアップしていく必要もあるし、伝わればいいどころか正しく書けなければ点数はもらえませんし、学んだ単語であれ文法であれしっかり覚えなければなりません。何度やっても覚えられないとか、間違ってしまうことは学校の英語学習では致命傷なのです。

このブログの読者はおそらく成年の方々でしょう。学校英語で苦戦した方は喜んでください。水曜日Wednesdayのつづりがなかなか覚えられなくたって、会話の時に「ウエンズデイ」と言えたらもう十分なのです。知っている=knowを「クノウ」と言って何度も先生から直された苦い思い出も、成人になったら、ひとまずクノウと言ってみればいいのです。実際の会話で相手側が「I know him. アイノウヒム」と言ったのを真似したり、言い直したりしているうちに、いつかクノウはノウになっていくし、仮にならなくても、同じ人としょっちゅう英語で話していたら、「クノウ」と聞いただけでknowと相手は察知してくれます。

そう、本格的なビジネスや高度な専門的な会話でもない限り、どれだけ文法を間違えようが、正しいつづりが書けなかろうが、相手に通じればいいのです。まして今であれば、自動翻訳という強力な味方があります。仕事の必要性とは違って純粋に英語ができるようになりたいと願う学習者であれば、それくらいハードルの低いところから楽しめるのが英語の醍醐味でもあります。

ところで、企業研修では、「学生時代は教科書の和訳を丸暗記してなんとかテストをクリアした。文法や英文解読として学んでいないから何も知識として残っていない」という方をお見受けします。私はそれによってひとまず学校を卒業したという点で、結果オーライだと思います。学校英語は、丸暗記であれ何であれまずはそこを抜け出しさえすればいい。自分に必要な英語は、むしろ社会人になってから自分に合った方法で身に着けていけばいいと思います。

ですから、今回の記事を読む前に、まずは「英語脳を育てること」と「学校時代の勉強」は一度切り離してみることをお勧めします。もちろん受験勝ち組の方や、言語学習が好きな方、勉強が得意な方は、その特性を大いに生かしていきましょう。

2) 知識としての英語脳

以下に、広義の英語脳を記しました。私たちが学校で学ぶのは、左上の「知識的言語」です。知識なので少しでも多くの単語や表現を覚えることが是とされますし、知識なので正しく覚えることが求められます。その下の「道具的言語」は、ビジネス界で求められる英語です。正式な書類などある程度、英語に正しさは求められますが、それでも学校英語の比ではありません。交渉の現場では、カタカナ英語でどんどん推し進めていく大胆さが求められますし、「伝わりさえすればいい」という英語の要素がかなり前面に出てきます。下段の「玩具的言語」はいわゆる言葉遊びの世界です。ひらめきや、ユニークな感性を育てるため、あえて突拍子もないアイディアや表現の世界で遊び、言語の常識的な使用から自由になってみる試みです。哲学者の千葉雅也氏が「地に足がついていない浮いた言語をおもちゃのように使う、それが自由の条件である」(勉強の哲学 貴たるべきバカのために 文春文庫)と述べているような世界ですね。学校での標準的な勉強や仕事から離れて、純粋に言葉の世界を楽しむことも英語学習の醍醐味です。

3) 身体技能としての英語脳 

上記の図の右側は、英語について語るときに忘れられがちな世界です。英語がコミュニケーションツールである以上、言葉以外の要素でも理解しあったり、表現しあうことは大いに可能です。英語教育界隈は言語脳が比較的発達している人が多いため、この図の右側の要素は盲点になりがちです。つまりジェスチャーなら一発でわかる、絵を描けば伝わるというところも言語的表現の世界につい誘導してしまう。顏の表情や態度のメッセージと言語とは必ずしも一致しないことなども、言語にばかり囚われると見過ごしてしまいます。英語脳を育てるというのは、必ずしも言葉を覚えることとの格闘だけではなく、右側の本来学習者の中にある様々な能力を総動員することでもあります。そして言語脳を日々駆使している英語教育者にとってやや見過ごしやすい領域でもあります。右側の身体能力やコミュニケーションセンス系は、知識のように覚えるとか、覚えられないとかいう次元とは違う世界です。英語学習=受験や学校英語の再来、すなわち知識の多寡を競う世界に戻るのではなく、学習者自身ができること、得意なことにフォーカスしながら英語脳を育てていくことが、一番無理なく学ぶ方法であり、かつ、楽しんでできることだと思います。

2.英語脳を育てよう

1)人それぞれの形で英語脳はすでに誰でも持っている?

英語学習者を励ますフレーズの中に、「実際に外国に行けばなんとかなる」や「アメリカ人なら学力に関係なく誰でも英語が話せる。だから練習すればだれでも話せるようになる」というものがあります。私はこれが当てはまるかどうかは結局当人次第なのではないかと感じています。特に知識系の英語をがんばってきた場合、TOEIC高得点を取ってすらも英会話に苦戦するケースがよくあります。私自身、TOEIC800点後半をひっさげて渡米出張しましたが、まったく聞き取れず、大きな挫折経験となりました。また、とあるマネジャーは、在米時代ずっと日本支社内のコミュニティで生きていたため、帰国後もさして英語が話せなませんでした。一方、「Is he is a manager?」「Are you are tired?」のような英語をガンガン駆使してアメリカに溶け込んでいる同僚の姿も見てきました。ざっくりと言うと、知識系英語ワールドが得意なタイプと、実践系生活系ワールドが得意なタイプがあるということです。言わずもがな日本の教育は圧倒的に知識系ワールド優位なので、ここで自分が英語は不向きだと感じた方には、ぜひもう一方の世界で自分を試していただきたいとひそかに願っています

2)英語脳を育て、バーチャルな日本脱出をしてみよう!

私自身、海外出張で感じたのは、日本でそれとなく感じてきた「普通であることへの見えない圧力」からの解放でした。しかし同時に、学歴や属性、普通という看板が全く通用せず、いつでもどこでも「個としての私」が問われている寂しさと心もとなさも味わいました。常に「私はここにいる」「私はこういう人です」と訴え続けないと、彼らの中に存在できないつらさは格別でした。この時の体験を思い出しますと、日本の「普通偏重文化」に適応すればするほど、海外に行ったときの孤独や心もとなさは強くなる半面、日本での適応に苦戦している人であれば、その逆の解放感を味わえるかもしれないと思いました。これは究極の個人的感想なので、あとは学習者本人に試してもらうしかありませんが‥・

ということで、実際に海外に飛び出すかどうかは別として、英語脳の開拓を通して、空想としての日本脱出を楽しんでみるのも一計です。覚えてナンボ、正しく書けて言えてナンボという世界を飛び出して、「伝わればもうそれで十分」という自由な世界を楽しむための英語脳もあってよいと思います。趣味や教養、将来の必要性に備えるのであれば、そんな自由なところから始めてみましょう。オンラインですぐに海外とコミュニケーションができる時代です。たとえバーチャルであってもそれが現実化するまでの時間は昔よりも短くなっていることだけは確かでしょう。

II.英語脳開発のために自分のタイプを知る

1.英語脳作りは自分の状況を知ることから

上の図は、英語脳を育てるにあたって学習者の状況を2軸でカテゴリー化したものです。一つ目の軸は英語の必要性です。英語が必要な環境にいるのであれば、その環境にいかに適応していくかが鍵となりますし、特に必要性に迫られていないのであれば、新たに学ぶモチベーションを見つけなければなりません。もう一つの軸は英語力のレベルです。中上級レベルであれば、学校時代に培った知識系の英語を思い出したり、それらの稼働率を上げていけばよいということになります。一方初級レベルであれば、改めて知識的積み重ねを始めていくのか、知識系とは別枠で新たなコミュニケーションツールとしての英語と向き合っていくのかを再考していくことになります。

2.4つのタイプ

1) 「音読」が決め手のタイプA(中上級・必要性高)

英語の必要性が高く、英語力が中上級レベルであれば、現行の学習に能動的要素を取り込むことがポイントです。能動的要素の象徴として「音読」があります。必要性が高いということであれば、とりあえず思ったことが口から出てくる状態が理想です。そのためにも「音読」のやり方を工夫していきましょう。実際のところ、中上級者、とりわけ上級者には、知識的にはもうやり尽くしている感があります。さらに難度の高い語彙を覚えたり、高度な表現を覚えるというような、知識のグレードを上げることよりも、今まで十分にインプットしてきた知識に音読要素を取り入れ、必要なときにすぐに知識が口から出てくる「稼働率」向上にリソース(努力や時間)を注ぐことをお勧めします。

2)「ゼロ学習時間」が決め手のタイプB(中上級・必要性低)

この層は、ある程度の英語力はあるものの、必要性がないため、学習が停滞している可能性があり、机に向かったり、教科書を開くという勉強モードにはなかなか踏み込めないかもしれません。そんな時に有効なのが「ゼロ時間学習」という発想です。これは学習時間としてカウントされないようなものを総動員する学習スタイルです。「自分が求めている英語ってどんなものでどんなレベルなのか?」を自問自答する時間、突然「これって英語で何て言うんだろう?」と思ったらネット検索したり自動翻訳で調べるような行為、あるいはそれを頭の中だけでグルグル思いめぐらす時間も、ゼロ時間学習です。ゼロ時間学習をモノにするコツは、日常生活と「今から英語の勉強をしよう」という学習時間との境界線をあいまいにしておくことです

3)「中学英語」が決め手のタイプC(初級・必要性高)

英語力は初級レベルではあるものの、仕事などの必要性に迫られている方なら、英語の守備範囲を「中学英語」に絞りこむことをお勧めします。業界用語や専門用語を中学英文構文に乗せて話していくイメージです。また、確実に伝わる英語を目指すのであれば、特に「語順」だけは意識しておくとよいでしょう。意思の伝達にのみフォーカスするのであれば、可算名詞・不可算名詞の使い分け、過去形と現在完了形の使い分けなどをはじめとする詳細な文法は、特に興味がある人以外はこの段階ではスルーしてしまいましょう。こうした詳細な文法は自動翻訳に任せてしまいましょう。たとえば「たくさんの情報をありがとうございました」と言いたいとき、学校文法的には、informationは不可算名詞だから、many informationsと言えないので、色々言い方を考えることになります。その点自動翻訳はまさにこうした文法が得意なので、Thank you for the great amount of information.のような英文を秒速で教えてくれます。

4)「ノンバーバル」が決め手のタイプD(初級・必要性低)

必要性もなく、英語力も初級レベルの場合は、勉強としての英語とは別に、ノンバーバルな世界での英語を探ってみましょう。ノンバーバルnon-verbalとは非言語と言う意味です。手始めに、英語を学び直すにあたり、教科書という文字の世界が必要なのか、できればそこから解放された状態で学びたいのか自問自答してみましょう。文字を使う学習に抵抗がなければ何らかのテキストを使えばよいでしょうし、もし文字を見るだけでうんざりするのであれば、口頭だけでのレッスンを受けてみてもよいでしょう。文字を使いたくない、教科書通りの勉強が苦手、と言うと「勉強する気あるのか?」と他人からは思われてしまいそうですが、そもそも勉強という枠、文字中心の学習から飛び出して英語をモノにするというのはそういう一面もあるということです。たとえば好きな洋楽をまずは音から楽しむ。そのうちその歌の意味がどうしても知りたくなり、そのタイミングで歌詞という文字を入れていけばよいでしょう。文を組み立てることに関しても、最初は思いついた単語を口に出してみたり、ジェスチャーやイラスト・図表などで伝えてみても構いません。そうしたやり取りを通して、「もうちょっときちんとできるようになりたい」という気持ちが芽生えたら、その時に勉強を始めていけばいいのです。もちろん、カタコトでも楽しくやっていけるのなら、そのまま行っても問題ありません。そこはもう学校ではないのですから、目の前の相手と楽しく過ごせるなら、どんな伝達手法でも、どんな英語でも構わないのです。

 

III . タイプ別英語脳増強法

1.タイプA

1)英英辞書で遊ぶ(アプローチ1)

中上級者であれば、様々な英単語を平易な英語で伝えることが可能です。この力を使って、いろいろな英語を英語で説明してみましょう。その際、敢えて超基本的な語彙でやってみると案外面白かったりします。その一例としてIとYouを英語で説明してみます。Iならthe person speaking、youならthe person spoken to でどうでしょう。調べたいときには、you 英英 で検索すると、people in general や used to refer to people when speaking to themのような英語定義に出会えます。このように何かモノや概念などを日本語を一切介在させず、英語で説明する力こそ、まさに英語脳(英語を英語で考える思考回路)の究極の形だと言えます。英語脳を身に付けたければ、一日10分程度で構わないので、身近な英単語を英語で説明することを試み、そのあと英英辞書で確認してみましょう。

2)音読に至るまでの腰の重さを軽く超える(アプローチ2)

中上級者ということは、あと一押しで自分の感覚に英語を落とし込めるレベルにあるということです。そのあと一押しとしてお勧めなのが音読です。音読を面倒臭がる学習者は多いので、基本的にあまり無理強いはしませんが、このタイプAにおいてはやはり音読が英語脳作りには最も効果があるので、お勧めです。腰が重いと言う方は、「今一分だけ」と決めて、手当たり次第に音読してみましょう。実際にその1分でピタッとやめてもいいですし、切りが良いところまで続けても構いません。コツは「よしチャプター1つ分音読しよう」とか「今から30分は音読時間」というような境界線を引かないことです。億劫なことをやるときには、今30秒だけ、今一分だけ、とハードルを可能な限り下げるのがコツです。5秒や10秒と言う設定でも構いません。それだけ短くても Thanks for your interest in our products.(弊社製品へご関心をお寄せいただきありがとうございます)という立派な一文が音読できてしまいます。暗記と言うより顏をほぐしたり、口周りの筋トレやストレッチぐらいの気持ちでやるとよいでしょう。

音読もやり過ぎると声帯を痛めますので、こちらの【疲れない音読】のショート動画も参考にしてください。

【疲れない音読】

こちらの動画は音読の際の気持ちの入れ方について解説してあります。

【音読における気持ちの入れ方】

3)「ファジーワード」で一つの語彙を深く掘り下げる(アプローチ3)

タイプAは英語を比較的よく使うグループなので、ひとつひとつの単語に対するセンサーを磨いておくと、コミュニケーションや英語理解に深みが出てきます。例えば、commit=約束 という平坦な単語理解に終わらせず、commitにはpromiseよりも重いニュアンスがあり、そこから重さ⇒望ましくないこと⇒commit suicide, commit murder、重さ⇒宣言や言質に近い重みのある約束⇒いわゆるコミット、というように掘り下げていきます。こうした dog=犬、というような記号化したシンプルな理解では消化しきれない、意味が多様であいまいな単語を便宜上「ファジーワード」としておきます。このファジーワード的な語彙理解を獲得すると、場合によっては一般のネイティブスピーカーよりも英文の理解が深くなり、「話す英語はかなわないけれど、文脈理解力はネイティブスピーカーに引けを取らない」という知的な自信へとつながります

こちらは、単純な記号的理解ではカバーしきれない抽象度の非常に高い英単語について解説した動画です。全6本で、naturalness/ nature/ quality/ consciousness & awareness/ claim/ manifestation、いずれも訳が一つに収まらない、すっきりと処理しにくい単語ばかりを集めました。

【ファジーワードのとらえかた】

 

2. タイプB

1)ゼロ時間学習(アプローチ4)

タイプBは、せっかく中上級の英語力があるものの、英語の必要性が低いために、なかなか学習に勢いがつかず万年中級のような状態が続きがちなのが悩みの種です。このタイプにまずお勧めしたいのがゼロ時間学習です。これは全て頭の想像の中でできるため、いつでもどこでもできるのが利点です。やり方は簡単です。日常生活やお仕事をしている中にあって、「これって英語で何って言うのかな?」という疑問がわいてきたら、その場で頭の中で英語化したり、スマホに自動英訳させるだけです。ゼロ時間学習の魅力は手軽さにありますので、このシンプルな作業でとどめておくことも継続のコツです。

ところで、私たちは日々数えきれないほどのカタカナ語や略語に囲まれています。聞くところによると、現代人の1日の情報量は江戸時代の1年分という話もあるくらいです。自動翻訳などの台頭により英語そのものは機械が訳してくれる時代になりましたが、このあふれる情報へのキャッチアップだけは自動翻訳任せにもしていられません。まずは自分で取捨選択し、自分の語彙に取り込むと決めたら一通りその言葉の背景をおさらいしておく必要があります。これは、新しい概念や用語に出会う度にスマホでチェックしていくのが一番手堅いやり方でしょう。このスマホで手軽にチェックというところがポイントです。なぜならばたとえその用語を深く学んでも、一年後は陳腐化してしまう可能性もあるからです。私自身も、なかなか耳慣れない単語を苦労して勉強したものの、1年後その用語はほとんど耳にすることがなくなり、拍子抜けしたことがよくありました。ですから、あくまでも軽くチェックに留めておくのが賢明です。とめどなくあふれる現代用語を2分で解説した動画を配信しておりますので、よろしければ参考にしてください。もちろん聞き流すだけで十分です。

【2分でわかるしごと英単語(降順=最新号からスタート)】

【2分でわかるしごと英単語(昇順=第1号からスタート)】

2)TOEICで反射的英語を身に着ける(アプローチ5)

タイプBが悩ましいのは、英語を実際に使う機会が少ないことです。そういう状況のときは、敢えて受け身的な勉強に徹してみましょう。自分からの発信がほとんどない受け身的勉強のメリットは、何よりも大量のインプットが中心となるため、英語脳に膨大な英単語、英文、英語の音声という栄養を提供できることです。その大量インプットを促してくれるのがTOEICです

実際に英語でコミュニケーションを取ろうとするとわかるのですが、話す時の余裕を支えているのは、自分の中の英語ストックだけでなく、相手側の英語が聞き取れるという安心感だったりします。少なくとも私自身は、TOEICのリスニングスコアが上がっていくほどに、英会話での心の余裕が生まれていきました。聞き取れない度合いが強すぎると、話すことをはなからあきらめてしまうか、相手の話に関係なく、自分が上手に話すことにばかり意識が向かいます。しかしひとたび相手の英語が理解できるようになると、聞くことに徹するようになり、自分の発言のタイミングは会話の自然な流れに任せるようになります。

TOEICの具体的な勉強法については以下の関連記事を参考にしてください。

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3)好きな動画や音楽で英語漬け(アプローチ6)

日本に居ながらにして英語をモノにしようとする限り、発信というアクティブな側面だけではどうしても限界があります。実際に使う機会がない間は、好きな動画や音楽にどっぷり浸かってみることをお勧めします。好きな領域であればある程度知識もあるでしょうから、その知識が英語の理解を助けてくれます。そして一番強調しておきたいことは、好きな動画や音楽に触れている時の、「言語としての英語は完全には理解できていないけれど、それでも楽しい」という状態です。英語学習にしつこく付きまとうあの完璧主義や覚えられない・理解できないことで積み重なっていく自己否定感や劣等感から自分を解放できる時間、できるかできないかという二元的世界を超えて、英語という音を楽しみ、文字に浸る時間を持つことは、健全な英語脳を作っていく上で非常に重要です。

以下の関連記事に、各自が好きなコンテンツから英語学習に入るアプローチを紹介してありますので、参考にしてください。

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3. タイプC

1)中学英語で英語脳を育てる(アプローチ7)

英語と日本語は語順がかなり違います。ということは語順の浸透は英語脳作りの非常に重要な要素ということになります。ここで抑えておくことは3つです。

一つ目は日本語と英語の言語的な違いをざっくり抑えておくこと。英語を使って日本語の言語的構造を再確認することがポイントです。日本語の特徴として、助詞があるために語順が自由であること、疑問文で発生する倒置(He is⇒Is he)が起こらず、末尾を「です⇒ですか?」を変えるだけで疑問文ができること、主語が省略されることが多々あること、英語の冠詞に該当するものがないこと、英語の名詞のように可算名詞・不可算名詞の区別があまりないこと、などが挙げられます。英語はこの逆で、語順がだいたい決まっていること、疑問文では倒置が起こること、日本語ほど頻繁な主語の省略は起こらないこと、冠詞があり、可算名詞・不可算名詞の区別がはっきりしている、などの特徴があります。

二つ目は、主語+動詞+目的語をはじめとしたざっくりとした語順を抑えておくこと。この「ざっくり」というところがミソです。「Yesterday I played tennis.でもI played tennis yesterday.でもいいけど、I played tennis部分は常に固定」というイメージですね。

三つ目は、語順のイメージがつかめるようになったら、それ以外の細かな英文法についてはあまりきにせず、単語ベースの発信に挑戦していくこと。その点、学校では、語順以外の細かな文法も勉強するため、どうしてもそちらに意識が向かい、英語を大胆に使っていくことがためらわれるようになります。もちろん細かな文法まで習得したい熱心な学習者であれば、それらの知識は決して無駄ではないので、大いに活用していただきたいです。しかしそうでなく、とにかく英語で考え自由に発信できることをゴールにするのであれば、安定した語順、しかも、主語+動詞+目的語、という基本中の基本だけ抑え、それに「Hot! 」「OK!」 「Good」のように思いつくままに単語を発信していくマインドさえあれば、コミュニケーションとしては十分です。中学英語で英語脳を育てるというよりも、中学英語から細かな文法を差し引いて、SVO、SVCと単語発信だけで攻めていくイメージですね。

これを機会に中学英文法を復習したい方はこちらをどうぞ。

参考図書 これでわかる英文法中学1年~3年

2)あなたから出てくるものは全て英語脳(アプローチ8)

中学英語どころか、それよりもさらに粗削りなもので十分だととらえられるようになると、自分から出てくるものは全て英語脳だというとらえ方もできるようになります。タイプCの強みは何よりも英語の必要性が高いということです。必要性が高いということはそうでない人よりも実践の機会があるということでもあり、実践を通して、ありあわせの英語で発信することが習慣化すると、ここから自分が英語で言えないものを引き出す知恵、理解できないときに切り抜けるアイディアも出てきます。例えば、出川イングリッシュからその断片を学ぶことができます。先日テレビで、タレントの出川哲朗さんが、「芸術家」に該当する英単語がわからず、現地のネイティブスピーカー相手に、こんなやりとりをしていました。

出川:

Michael Jakson, Madonna, (歌を歌ったり、ダンスで表現)What?

:ネイティブスピーカー

Singers?

出川:

Yes, Yes!   Picaso,  what?

:ネイティブスピーカー

Artist?

出川:

そう、それ! Artist! 

面白くないとテレビ的な取れ高にはならないので、こういう絵になっているところもあると思いますし、ビジネス場面に直面している実際の英語運用者であれば、スマホに英訳させて一発で解決してしまいます。それでも、この発想から学べることは大きいと思います。ちなみにこの出川的誘導術をビジネスに応用するならこんな感じです。

ネイティブスピーカーA:

●△□$%&’())#”==!”#$

:日本人B

Pardon me? 

ネイティブスピーカーA:

●△□$%&’())#”==!”#$

:日本人B

Sorry if I’m wrong , but you said  you agree with this idea, right?

ネイティブスピーカー:

That’s right. 

聞き取れない時のPardon me? もそう頻繁には使えませんので、状況からこんなこと言ってるのかな?と想像し、思い切って自分なりに予想したことを相手に You said~、right?   や You mean ~ right?と聞いてみるのです。

このような英語力不足をカバーする諸々の知恵も立派な英語脳だと言えます。そもそも私たちにとっては外国の言葉である英語をネイティブスピーカー同様に操作することは至難の業なのですから、処世的な知恵も英語脳の大切な要素だととらえておくだけで、英語運用にあたっての心理的ハードルはかなり下がります。

3)自動翻訳のハシゴ(アプローチ9)

タイプCは、英語力的にまだまだ課題はあるものの、仕事などの必要性から、とにかく英語を使っていかなければならないのが特徴です。そんなタイプCにお勧めなのが自動翻訳のハシゴです。自分の英語力が中級未満の時というのは、お手本を学ぶ意識や目の前の英語を無批判に受け取る意識が強くて、自ら英語を評論したり取捨選択する視点はほとんどありません。しかしながら、英語脳を持つというのは、自分で考え、自分で選んでいく力を持つということでもあります。評論とまではいかずとも、「こっちの英語はしっくりくるけど、あっちの英語はいまひとつ」とか「何となくだけど私はこっちの英語が好き」という「自分が選択する」というマインドを今から育てていきましょう。言葉を主体的に操作する視点は、自分の英語脳を育む上でとても大切なことです。

まずは無料のWebテキスト翻訳を色々使ってみましょう。個人的には、Google翻訳とDeepL翻訳に同じ日本語を英訳させて、自分でも言えそうな表現を取捨選択しているようにしています。最終的に出来上がった英文を自動和訳させて、違和感ない日本語であることを確認してから、その英文を発信するようにしています。また、日本語を入れる際には、少し冗長にはなりますが、主語を必ず入れたり、人名などの固有名詞は最初からアルファベットで入れるようにしたり、「口がさみしい⇒何か軽いスナックが食べたい」のように慣用表現は可能な限り具体的な表現に置き換えるようにしています。

4.タイプD

1)非言語的表現を楽しむ(アプローチ10)

長年英語教師をやっていると、非言語的表現への注目度が低下していくのを感じます。つまり何事も言語で理解し、言語で表現しようというマインドセットが知らないうちに大きくなっているんですね。膨らみ過ぎた言語至上主義を和らげるために、私はときどき絵を観に行ったり、音楽を聞いたり、「感じるだけの」時間を持つようにしています。言語以外のセンサーを磨くことも、ある意味英語脳を育てている大切な時間だと思います。実はビジネスの会食などで外国人と話してみるとわかるのですが、外国人との話題は、歴史、文化、と多岐にわたり、英語そのものの勉強だけではなかなか彼らと会話を楽しむステージに上がれないことを感じたりします。暗黙の了解で、食事のテーブルで日中のビジネスの話を、政治や宗教などの信条にかかわる話題を持ち出すのは野暮な雰囲気があります。こういう時、普段触れているアートが話題を連れてきてくれることがあります。ですから、アートに触れることは、長い目で見れば、話題の豊富さという点において英語力につながっていると言えます。

2)間違ってもいいから、どんどん話そう(アプローチ11)

英会話を楽しむほどの語彙力がまだないときは、日本人やバイリンガルの先生と英会話を楽しんでみるのも一計です。よくある日本語厳禁というルールも、ケースバイケースで使い分けましょう。ほとんど話せない段階では、ある程度頑張ってみた後で、「本当はこういうことを言いたいんですが…」と日本語で質問しましょう。相手が日本人の先生であれば、「できる限り、単語だけか、短い文で教えてください」とリクエストをすれば、「そういう状況の時に使えるのが●●という単語です」のようなアイディアを提供してくれるかもしれません。「先生から教わる」一本ですと、自分の消化キャパを超えた情報がどんどん出てきてしまう可能性がありますから、可能な限り、自分の理解度、自分が理解可能なレベルなど、自分のことを説明するようにしましょう。先生からすると「注文の多い生徒」に見えてしまうかもしれませんが、初級者のリクエストであれば、おそらく先生も対応可能なはずです。

3)コミュニケーションの本番を待つ(アプローチ12)

状況によって求められる英語は違います。まだ実際に使っていない段階から、あれこれ悩むより、将来遭遇する英語使用機会を楽しみに、今は、一つ二つ、言える単語、理解できる文が増えていくことを楽しみましょう。このコラム冒頭で申し上げた通り、もう学校に行くことも、学校のテストのために知識を完璧に覚える必要はないのです。この大人ならではの自由な状態をたっぷり楽しみましょう。今は覚えることで精一杯かもしれませんが、英語脳を持つということは、日本以外の場所で自分の花を咲かせる可能性を持つということでもあります。私の場合ほとんどがビジネスでの英語体験ではありましたが、それでも、実際に外国人と話していると、粗削りの英語でもコミュニケーションはできてしまいますし、「空気を読む」に代表される日本独特のきめ細やかな気配りはあまり求められず、そこには良くも悪くも、大味で大雑把な世界が待っていました。私自身も英語を話している時だけは、神経質で生真面目なキャラクターから自由になって話しているような気がします。日本での自分が全てではありません。外国人と話したり、海外に出てみると、日本では体験できなかった自分の顏を知ることになるかもしれません。英語を学ぶこと、英語脳を育むことは、そういう楽しみの土壌作りにもつながっています

IV. 英語脳はみんな違っていい

どんな勉強をしようが、その結果、どれだけ覚えられて、どれだけ忘れ、どれだけ間違えようが、

それでも知ってる単語はゆっくり増えている。それでも思考はゆっくり洗練されていく。

いや、知識の多寡を超えて、文法的正しさを超えて、

コミュニケーションの現場を何とかやりくりしている、あるいは何となく切り抜けられているなら、

それはすでに英語脳が順調に育っていると言える。

だから英語脳、みんな違っていい。